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執筆者の写真Byakuya Biz Books

屋台だけじゃない!? 福岡に生まれた新しいナイトライフ


010 BUILDING


2022年12月、福岡市博多区に「010 BUILDING」がオープンした。食とエンタメを融合した複合施設で、日本初上陸のショーを楽しめるほか、有名シェフやバーテンダーが手掛けるレストランとバーも併設。ほかの商業施設とは一線を画すコンセプトで注目を集めている。このプロジェクトの企画から運営を行うのは(株)Zero-Ten。代表取締役の榎本二郎さんを迎え、同社が目指す福岡の新しいナイトライフに迫る。



福岡に誕生した、これまでにないナイトライフを楽しめる場所


――010ビルディングは博多駅からほど近い場所にありますが、ここはどういう土地なんでしょうか。


けっこう独特な場所ですね。中洲屋台(※)の延長線上にあって、キャナルシティ博多のすぐ横にあるんですけど、人流がすごくあるわけではない。中洲をA面としたら、こちらはB面ですね。中洲はドメスティックな夜の時間を過ごす場所ですけど、B面は多様性のある、もう少しグローバルなナイトライフをつくろうと思っています。


※那珂川と博多川に囲まれた長さ約1キロ、幅約200メートルの細長いエリア。博多駅から気軽に行ける屋台は、中洲屋台のほか天神屋台もある。


那珂川の先には中洲がある


――福岡では都市開発が進んでいるんですか?


福岡全体が開発ラッシュで「ザ・リッツ・カールトン福岡」(2023年6月開業予定)をはじめ、巨大開発が目白押しで、街中が変わろうとしています。このエリアも、キャナルシティの近くに地下鉄の新駅ができる予定です。だから、ここが起爆剤になればいいなと思う部分もありますね。


――010 BUILDINGはいわゆる商業施設とは違うのでしょうか。


僕らはこのビルを文化複合施設と呼んでいます。商業施設というとテナントを入れて賃料で元を取るというイメージがあります。うちにもレストランは入っていますが、僕らは全店舗の株主でもあるんです。すべてオリジナルのお店で、身銭を切って運営している。メインのオーナーはいるんですけど、僕らもリスクを背負っているんです。


――施設を作るにあたって、福岡のナイトライフに注目したのはなぜでしょうか。


一つは、僕は新しい文化を生みだしたいと思っていること。アートが好きで、クリエイター寄りのマインドが強いんですけど、すごい文化やアートは夜から出てきたりします。たとえばアンディ・ウォーホルは夜の人で、夜にめちゃくちゃなことをして、インスピレーションを得ていました。


もう一つは、福岡での夜の遊び方が単純化されていたことです。屋台でおいしいご飯を食べて、知り合いのバーに行ったり、中洲に遊びに行ったり。クラブもあるけど若者向けで、ショーを観ながらといったお店はまったくない。世界にはもっとおもしろいナイトタイムエコノミー(夜間の経済活動のこと)があるから、福岡にも欲しいと思ったんです。


――その最たるものが日本初上陸となるTHE BOXのショーですね。


商業施設で一番多いパターンは、有名なブランドをただ引っ張ってくることです。ニューヨークで流行っているからそのまま東京に持ってきました、みたいな。でも、ニューヨークと日本では全然違うんですよ。カウンターカルチャーで人を楽しませようという本質的な部分は同じなんだけど、日本人はもっとまじめだから、そのまま持ってきても受け入れられない。だからTHE BOXの場合も、まずはしっかり共通項を確認して、段階を経てやっていきましょうという話をしました。


またそれだけじゃなくて、新しいものはカルチャー同士が混ざったときに生まれると考えています。たとえばスペインのサン・セバスチャンの料理がおいしいと言われるのは、スペインとフランスのエキスが混ざった料理だから。僕らもその仮説のもと、有名シェフと地元のシェフ、世界一を取ったバーテンダーと地元のバー、僕らとニューヨークのエンターテインメントチームといった形で組み合わせることによって、オリジナルのお店ができるんです。


「THE BOX」のクリエイターチームがディレクションする世界トップレベルのショーを観ることができる。「THE BOX」はニューヨークで最もクールなナイトスポットと言われる



想定外だったお客さんとは


――構想はいつからあったんでしょうか。


3~4年前、コロナ禍直前ですね。


――それによって何か軌道修正などは?


オープン予定が1年ぐらい遅れましたが、軌道修正は考えなかったですね。コロナを経て、なんでもオンラインで済ませる、といったことも言われましたけど、人が集まらない世の中なんて存在したことがないじゃないですか。だから元に戻るというか、進化した形で元に戻ると思っていました。実際、ライブを現地に集まって観る人もいれば、オンラインで観る人だっています。


本格カクテルを楽しめる「BAR 010(バー ゼロイチゼロ)」


――オープンから5カ月ほど経ってみて、状況はいかがでしょうか。


いろんな予想外のことが起きながらも、着実に上向きになっていると思います。


――予想外というのはたとえばどんなことですか?


僕らが想定していなかった人、たとえばLGBTQの人たちがすごく喜んでくれたんですよ。「こういうのを待ってた!」といった反応や、中には「働きたい」「もうこういったパフォーマンスを目指すのはあきらめようと思っていたけど、火が付いた」とまで言ってくれる人もいて。


一方で、「ここは最低な店で卑猥なだけじゃないか」とか「音がうるさくて最悪だ」とか言う人もいる。僕は福岡市民を刺激したいという気持ちもあったから、そういうリアクションもおもしろかったですね。


そういうインタラクションが大事だと思っているんですよ。街の成長って、たまに大きな刺激を与えないと、絶対に変わらない方向に凝り固まっていくものだと思っているから。


榎本二郎さん/株式会社Zero-Ten代表取締役社長

福岡県出身・1978年生まれ。2011年に福岡市でZero-Tenを創業。Web、映像、イベント、空間演出などを手がけている



文化をつくるにはビジネスにこだわる必要がある


――現状で見えている課題はありますか?


まず、運営を続けることがめちゃくちゃ難しいんですよ。そもそも、ここは普通のディベロッパーなら「これじゃ収支がまったく合わない」と考えるような、ぜいたくなつくりになっています。


――というと?


建築するには建ぺい率(敷地面積に対する建築面積の広さの割合で建物の広さを制限される)や容積率(敷地面積に対する延床面積の割合で建物の高さが制限される)を考えなければならない。だから、一般的な商業施設やマンションは真四角、長方形のビルが多いですよね。


それは、要は利回りを良くしようと考えて詰め込むだけ詰めこんだ結果です。だからデザイン性のない退屈なビルができるんですけど、僕らは50~60%しか使っていません。それはコンテンツベースで作ったからです。


――なるほど。ということは、その限られたスペースの中でしっかり収益性を上げる必要がありますね。


だから、運営が難しいんです。たとえば、ずっと同じショーだったら飽きられてしまうから、お客さんを楽しませるものを考え続けなければいけない。僕らは演出もやっているから、パフォーマーを選ぶこと一つ取っても、つねに情報を張り巡らせているし、その上で地元に溶け込むような演出にして盛り上げたり。


――どのくらいのサイクルで更新しているんですか?


6カ月でガラッと変わるんですけど、その間にもこまかい調整はしていますね。


――かなり手間のかかる運営なんですね。


あえてそっちを選んだし、手間をかけないと文化にまで成長しないと思っているんですよ。


――集客面で何か工夫したことはありますか?


最初はSNSで情報を出さないようにしていました。ブラックボックス化することで、逆に中を覗きたいといったアピールの仕方を行いティザープロモーションを行いました。ただ、土地柄かなかなか中身を見ないと来店しないというお客様の要望も多かったので、今ではSNSも使い戦略的に情報を配信しています。その時々の要望に応じてアジャイルにマーケティングをしていくことが大切だと考えています。


新しい形のファインダイニング 「GohGan」


――運営するときに一番こだわっている部分は?


曖昧な言い方になるけど、全体の見え方というか空気感ですね。ここはしつこいぐらい入り込んでいます。僕のフィロソフィ―に近いというか、そこを外すと全部が崩れてしまう。このビル自体がアート作品のように思っているから。


――アート作品とはいえ、ビジネスである以上はしっかり利益を出すことも大事だと。


お金がないとダメだし、そこが逆におもしろい。すごく実験的で、利益に対して僕も燃えるし、それが嫌な気分じゃないんですね。「これだと儲からないけど、こうするとめちゃくちゃ儲かるんだ」と、むしろ楽しんでいる自分もいます。これからもこの場所がカルチャーとして強く発信できる場所となると同時に、ビジネスとしても利益をさらに上げていこうと思っています。

 
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