
質問も後半戦。書き方の基本的なテクニックを教わり、これなら私もできる!と、前向きな気持ちが湧いてきた。さらなるスキルアップも期待できるかも? 今回は、ワンランク上の文章を書くために必要なことを聞いてみようと思う。
「名文」を繰り返し読む
『「文章術のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』には、「手本となる名文を読むことが、文章力が高まるコツ」と書いてある。それなら、どんな本を読めばいいんだろう?
「僕の好きな本は、末井昭さんの『素敵なダイナマイトスキャンダル』(筑摩書房)と、椎名誠さんの『新橋烏森口青春篇』(小学館)です。この2冊を読んだことで、『出版業界って、楽しそうだ』と思うようになりました。編集者の道を目指すきっかけとなった本です。好きな本を読むことで、自分にとっての名文に出会えます。文章のリズムや、言葉の使い方も自然と吸収されるので、語彙力も高まります」(藤吉さん)
「私は、向田邦子さんのエッセイや、山田詠美さんの本は繰り返し読んでいます。エーリッヒ・フロムの『愛するということ』(紀伊國屋書店)は、内容が好きだったので10回以上読みました。いろいろな本を多読する人もいると思いますが、一つの本を繰り返し読んで、自分の中に取り入れていくという読み方もあります。
文章力を高めるには、自分が少し難しいと感じる本に挑戦するのもいいでしょう。自分に負荷をかけることになるので、文章を読む力が鍛えられ、文章力が養われていきます」(小川さん)
語彙力(ごいりょく)をつける
普段の会話で、感想を求められたときに、「スゴイですねー!」で話が終わる場面があった。もっとほかの表現方法があるはずなのに……言葉が出てこない! そんなとき、ふと「語彙力」という言葉を思い出した。語彙力とは、その人がもっている単語の知識と、それを使いこなす能力のこと。語彙力をつけると、会話はもちろん、文章力も上がると藤吉さんは言う。
「語彙力をつけるメリットは3つあります。1つ目は『正確に説明できる』。物事を説明するときに、頭の中で考えていることを的確な言葉を選んで表現できます。2つ目は『理解力が上がる』。語彙を豊富に知っていると、本を読んだときや、人の話を聞いたときに、内容を深く理解できます。3つ目は『豊かに表現できる』。同じ言葉の繰り返しが減り、表現力が豊かになります」(藤吉さん)
×悪い例
映画『カメラを止めるな!』はおもしろかった。とくに、ラストシーンがおもしろかった。とてもおすすめの作品だ。
〇良い例
映画『カメラを止めるな!』はおもしろかった。とくに、ラストシーンが意外で目を疑うほど。一押しの作品だ。
『「文章術のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』(日経 BP)
「ある名著では、『どんなに能力がある人でも、稚拙な表現をしていたり、思慮の浅そうな表現をしてしまえば、社会人としてのレベルを低く見積もられてしまう』と説いています。語彙力があるか、ないかによって、社会人としての評価が左右される場合もあるのです。
語彙力を高めたいときに、もっとも役立つのが辞書です。辞典を引くと、正しい言葉の意味や使い方が身につくからです。『この表現は、この言葉で間違えてないかな』と思ったとき、辞書を引けば、意味を正しく理解できます。
文章のプロたちは国語辞典に加えて、『類語辞典』もすすめています。『類語辞典』は、同じ意味や似た意味を持つ言葉をまとめた辞典です。同じ言葉がくりかえされるのを避けたいときや、似た意味をもっと違う表現にしたいときに使うと便利です。
的確に自分の情報や感情を伝えるために、語彙力は必要です。辞書を引く習慣があると、語彙が増えるので、より正確に伝わります」(藤吉さん)
こまめにメモをとる
本書の第8位ではメモの大切さについて触れている。アイデアが浮かぶ場所で、いつでもメモを取れるようにしておくことが好ましいそうだ。お二人はどんなメモの取りかたをしているんだろう?
「僕はパソコンの前で考えることが多いです。電車の移動中に考えを整理することもあります。メモを取るときは2つあって、ちょっとしたアイデアは、iPhoneのメモ機能を活用しています。もう一つは取材のときにメモを取ります。対話の中で気になったキーワードやもう一度聞き直したいことを記録します」(藤吉さん)
「私は、朝の散歩のときに、浮かんだアイデアや、当日やることをiPad miniのメールでボイス機能を使ってメモし、自分のアドレスに送っておく。書く手間が省けるので、とても便利です。メモについては、思いついたことをすぐメモできるように、家の各所に付箋とペンを置いています。書いた付箋は、必要に応じてノートに貼っています」(小川さん)
お二人ともメモは頻繁に取っているようだ。ふと思いついたことは、メモをしないと後々忘れがちなので、ボイス機能は便利かも! 整理しながらメモをとるようにしよう。
とにかく書く
連載を通して、書き方の基本的なことから上達方法まで、幅広く教えてもらった。今日明日で、プロのような文章になるわけじゃないけど、日々の積み重ねで近づくことはできそう! 書くことを習慣化するために、普段から何か取り組める方法はあるだろうか?
「文章を上達させるには、『とにかく書く』ことをおすすめします。第2回でも紹介しましたが、私はとにかくたくさん書いてきました。『とにかく書いたほうがいい』のには理由があります。
スポーツでも、日常的に体を動かしていないと、しだいに動かしづらくなります。練習を重ねなければ、上達は難しいものです。文章も同様です。書き続けていないと書けなくなりますし、『上達したいと』思って書き続けないと、決してうまくなりません。
『とにかく書く』の具体的な方法として、『時間を決めて毎日書く』こと。これを実践するために拙著では7つの方法を紹介しています」(小川さん)
書く機会を増やす7つの方法
(1)新聞や雑誌、ネットに投稿して見る。
(2)日記をつける。
(3)ブログを書く。
(4)はがきや手紙を書く。
(5)メールの返信を丁寧に書く。
(6)映画や本の鑑賞ノートをつける。
(7)読んだ小説のあらすじをまとめる。
『「文章術のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』(日経 BP)
「まずは自分の取り組みやすい方法で、試してみるといいと思います。とにかく書かなければ、始まりません。文章がうまくなりたいなら、今日から書き始めてみましょう」(小川さん)
「文章がうまくまとまらないときは、引き算を意識するといいかもしれません。引き算をする考え方は、現代人は苦手なようです。集めた情報をそのまま使うのではなく、必要な要素を抜き出していく。この練習をしていくと、すっきりとまとまった文章が書けるようになります。『何を伝えるために書いているのか』という軸をもつと引き算はしやすくなります」(藤吉さん)
今回で学んだこと(まとめ)
文章力をスキルアップするためには、名文を読んだり、辞書を引いたり、普段からのちょっとした心がけが、自分の糧となるんだなと感じた。そして、「書く」習慣を自ら作り出すことも大切。日記など個人的に書いている分には、気負いせずかけるので、取り組みやすいかも! 次で最終回。「書く上でどんな心構えが必要か」を聞いてみよう。
【ここをチェック】
・名文を繰り返し読む
・語彙力(ごいりょく)をつける
・こまめにメモをとる
・とにかく書く
■教えてくれた人

藤吉豊(ふじよし・ゆたか)
株式会社文道、代表取締役
男性情報誌、自動車専門誌、2誌の編集長を歴任。2001年からフリーランスとなり、雑誌、PR誌の制作や、ビジネス書籍の企画・執筆・編集に携わる。インタビュー実績は2000人以上。2006年以降は、ビジネス書籍の編集協力に注力し、200冊以上の書籍のライティングに関わる。大学生や社会人に対して、執筆指導なども行なっている。

小川真理子(おがわ・まりこ)
株式会社文道、取締役
編集プロダクションにて、雑誌や企業PR誌、書籍の編集・ライティングに従事。今までのインタビューの実績は数知れず。得意なジャンルは「生活」全般、自己啓発など。自ら企画編集執筆した本に『親が倒れたときに読む本』(エイ出版)がある。近年は、ライティング講座にも力を注ぐ。
※文道では、2021年10月より女性向けライター養成講座を開催予定。お問い合わせは、info@y-academy.co.jpまで。
■参考資料

■取材・執筆

相田真理(あいた・まり)
女性向けのコミュニティ「富女子会」の運営に携わる。「お金」にまつわるテーマをもとに、イベントや講座の企画、開催に従事。主催した「ライティング講座」で藤吉氏、小川氏よりライティングを学ぶ。のちに「富女子会ライター部」を設立し、17名のメンバーと共に活動中。
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