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執筆者の写真Byakuya Biz Books

絵本作家が教える、好きなことで生きていくための絶対条件

更新日:2022年5月20日



世の中に「好きなことで生きる」ことができている人はどれくらいいるだろうか? 北海道を拠点に活躍する絵本作家・そらさんは、そのうちの一人だ。JR北海道ICカード乗車券「kitaca」や花王「ニベアクリーム」といった企業イラストから、自身の著作も数多く出版する売れっ子である。誰もがうらやむ生き方ははたして、持って生まれた才能のおかげなのか? それともただのラッキーだったのか? そこには「好きなことをビジネスにするための条件」があった。「自分にはムリ」とあきらめる前に、そらさんの言葉に耳を傾けてみてほしい。



「絵を描く人になりたい」と思ったきっかけ


私が絵に興味を持ったのは3歳のときです。父が色えんぴつでお花の絵を描いてくれて、「人間の手って、すごいことができるんだ!」とビックリしたのを覚えています。


また、母は毎晩、絵本を1冊読んでくれました。どんな絵本でも、母の声で読まれるとぬくもりを感じたんです。お気に入りの絵本は『こすずめのぼうけん』『かもさんおとおり』『せんたくかあちゃん』でした。


そらさん。ペンネームは、空を見たときに「どうやったら空の美しさを表現できるんだろう」と不思議に思ったことから


絵本には「作と絵」がありますよね。母から「絵本を書いた人たち」のことだと教えてもらったとき、「絵本って書くものなの!? じゃあ、お父さんが描いてくれたような絵みたいなもの?」とそこでもビックリして。


そうしたこともあって、幼い頃から絵を描く人になりたいと思うようになり、6歳のとき、自由研究で初めて本格的に絵本を描きました。仕上げは母にハードカバー製本をしてもらって、それは今でも私の宝物です。


自由研究で作成した絵本。現在の片鱗が垣間見える!?


ただ、高校卒業後は絵の学校に進学したわけではなく、宅配便やモデル、キャンペーンガール、カフェの店員、バーテンダーなど、いろいろなアルバイトで生計を立てながら、独学でイラストを描く生活をしていました。


大晦日にスーパーの店先でカメラのフィルムを売っていたときは、紙とペン、セロテープを借りて「家族の思い出、買い忘れありませんか?」とポップを書いて売り上げを伸ばし、カフェバーではオリジナルの星座カクテルを12種類つくり、それぞれをイラスト化してメニューをつくったら、バーの売り上げが10倍になったこともあります。


キャンペーンガールやモデルのお仕事から広告代理店さんとつながりができ、広告イラストのお仕事をいただくこともありましたね。


アルバイトは一見、回り道のようで、じつは一番近かったのかもしれません。絵の学校には絵を描ける人がたくさんいますけど、絵を描く人がいないところに行くことで重宝されます。


そして、お金をいただきながら絵を描くことで、自分自身がすごく伸びるんです。そのお金で画材だって買うことができます。


また、どんなお仕事も熱心に取り組むことで結果を評価していただけて、最後には本当にしたい絵のお仕事をいただけることも実感しました。


好きな絵本や絵は「どうやって描いているんだろう?」という視点で観察し、実際に独学で試しながら技法を学んだ


自分をアピールするために名刺もつくりました。21歳の時、同い年の起業家の社長さんから「名刺をつくるんだよ」と教えていただいて。


最初は絵の学校も出ていないのにイラストレーターと名乗っていいのかわからなかったんですけど、イラストレーターや絵本作家は資格がある職業ではないので、自分が何者であるかを発信しなくては誰にも届かないことに気がつきました。


名刺をつくってからは、アルバイト先で知り合った方などに配っていました。肩書きは「自分がどうなっていきたいか?」という面においても大切なことだと思っています。


絵を描くお仕事であれば、呼び方は「絵描き」でも「アーティスト」でもよかったのですが、「絵本作家」と「イラストレーター」が今の自分にはしっくりくるということ、そして何より「絵本大国・北海道」という夢に向かうためのキーワードでもあるからです。


絵本作家として活動できるようになったのは、一般社団法人札幌地区トラック協会が発行する、しろくまのトラック運転手が主人公の『ランディー』シリーズ絵本を手がけることになってからですね。


文章よりも絵の方が得意なため、絵もお話も自分で書く『ランディー』シリーズ絵本は、毎年苦戦しながら挑戦しているそう。そらさんいわく「すぐに違うタッチを試してみたくなる」せいか、作品ごとに絵の雰囲気が変わることもしばしば


「トラック業界の役割を伝えるため、トラックを題材とした絵本をつくりたい」というお題のプレゼンに参加したのが24歳の頃。それ以来、17年で14作品の絵本を描いています。


とはいえ、高校を卒業してから10年間は全然食べられませんでした。そんな私の人生が大きく変わったのは、ある有名な会社の社長として活躍していた、アメリカ人起業家の存在でした。



クリエイティブなことに集中すればお金になる


その社長さんと出会ったのは24歳のときです。数年経ったあるとき、「いくらがんばって描いても食べられるようにならない。夢で食べていくことがなかなかできない」と相談したら、「それはやり方が違うんだよ。クリエイティブなことだけに集中すれば、すべてうまくいくようになる」と教えてくれたんです。


健康、お金、夢のバランス。それらのうち、何を優先すればいいのか。また、お金のためにアルバイトにしがみつくことで、どのくらいの時間や体力が取られているのか。


だから、自分が心地よくクリエイティブに活動できる時間をつくるためには、今の生活をやめること。そうすれば、お金がついてきて、心と体に余裕が生まれ、健康的な生活になり、いい循環が生まれる――。


でも、その言葉をすぐに信用することはできませんでした。当時のアルバイトは、私にとって生活をしていくために必要なお金を得る生命線です。その仕事を手放すことがこわくて、その後の5年間はクッキングスタジオで働いたり、デザインの学校で絵を教えたりしていました。


私は小さい頃から絵本作家や絵描きになりたかったけど、学校の先生やまわりの人たちに「好きなことで食べていくなんてムリ」と言われていたので、「自分はこの程度しかなれない」といった考えを捨てることができなかったからかもしれません。


でも、私の夢を笑わずに聞いてくれ、はげましてくれたのは、同い年の起業家や億万長者の社長さんでした。彼らは自分自身の考えと行動で成功を勝ち取ったんです。


だから、私もお金のためとがんばっていた仕事をどんどん減らすことにしました。広告制作料金基準表を参考にしたり、他者視点も得たりしながら、「自分の値段はこれです」という客観的な価格を設定し、絵の仕事に専念することで、結果的に仕事の質も金額も上げることができました。


絵本作家としての最新作『パンダ星』(学研プラス)では、200頭ものパンダを描いた


好きなことで食べていきたいなら、そのことに集中する環境をつくるだけでなく、瞬発力を磨いていくこともコツと言えるかもしれません。


たとえば、広告関連の仕事の場合、広告代理店さんとタッグを組んでプレゼンすることが多いんですけど、代理店さんとの打ち合わせの際には、仕事を持ち帰らずにその場で思いついたアイデアをラフにして描き上げ、制作の確認をとります。


そして、そのアイデアを即座に修正し、その場で承諾が取れたら、早いときは2日で描き上げたりします。


打ち合わせをして持ち帰って作品を練り、後日メールで打ち合わせ日を決めて、アポイントを取り、もう一度会って打ち合わせをしてそこから制作して……と、時間がかかってしまう仕事のやり方は基本的にはしません。


その場で出ないアイデアは、自分にはなかったアイデアと割り切り、その場で出るものが今の自分の実力と受け止めるようにしています。


そして打ち合わせの場で、ラフの制作と作品納品日までの詳細なスケジュールを決め、打ち合わせの際に皆さんと共有し、全員で背筋をピーンと張って制作・納品までの足取りへと一気に向かいます。


ただ、そこからが私の自由な表現の世界! 一番楽しい制作の時間に存分に浸れるのです。

これがしたいがための真面目さです(笑)。


この価格設定と時間管理の考え方は、「クリエイティブなことに集中する」ための鍵となりました。


人と話しながら絵を描くことも得意。取材中、何枚も絵を仕上げる


打ち合わせの場でラフを書くことはメリットもあります。著作権の上でも「自分がこの場で聞いたことに対してにまさに今、アイデアを湧かせたたこと」という補てんもできるんです。


また、「ラフを3案ほど提出してほしい」と先方からお願いされたら、20案ぐらい完成形に近い形で提案することもあります。


ほかの人が大変だと思ったり、面倒と思うことを進んでする――だから、絵の仕事をいただき続けられるのかなと思います。


愛犬のホリーも取材中に2枚完成。使う画材によって雰囲気もガラリと変わる


クリエイティブな仕事を続けるには社会性も必要


人任せにしないで、自分で仕事をつくり出すことも必要かなと思います。そのことがクオリティーを保つことにもつながるからです。仕事が来るのを待って、来たら検討して……をくり返しているだけで時間は経ってしまい、結局、制作者にしわ寄せが来てしまいます。


そのためには、社会性が欠かせないように思います。やはり、ある程度は営業力やプレゼン力、コミュニケーション能力が必要です。その点、アルバイトでいろいろな経験を積むことができたのは、私にとってプラスでした。


社会性は、作品を売り続けるためにも必要です。作品をつくり続けたいなら、作品を売り続けなければなりません。一人でも多くの人に自分の作品を見ていただくためには、積極的に発信することも大切だと思うからです。


昨年、私のドキュメンタリー映画が公開されたときは、映画館の前で「今から私の映画がはじまるので、よかったら観ませんか?」と呼び込みもしました。「あんたが出るなら観ていこうか!」と気さくに観てくださった方も多かったのです。本を出版すれば、書店やショッピングモールで読み聞かせイベントなども開催します。


私が売り込みや告知をがんばれるのは、作品をつくり続けるためです。自分をいろいろな方向から磨くことで、作品により磨きがかかります。制作ばかりではリズムがうまく取れないようにも思います。お客さまと直接お会いしたり感想を伺うことで、ふたたび制作に没頭することができます。


日の目を見なかったイラストは、アトリエに貼って眺めたり、写真を撮ってネットにアップ


クリエイティブな仕事を続けていくことは簡単ではないと思います。私のように周囲から「ムリ」と言われることだって少なくないはずです。けれども、自分の人生は自分がつくり出すものです。


もし、「私は年収300万円の人間だ」と思ってしまったら、それが天井になってしまいます。もし、「自分はその夢をかなえられない」と思ってしまったら、それが天井になってしまいます。


そんな天井を取り払うことができるのは自分自身だけです。本気で夢をかなえたいなら、自分の心に素直になる。そして好きなことに集中し、社会性も磨きながら、全力をつくしてみてほしいですね。


そらさんの作品①「ZOUMUSHI」


そらさんの作品②「SHIROKUMAN」


そらさんの作品③「TAKUAN SOUL」

 

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