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「誰でもデジタルマーケティングの現在地がわかる」ことを念頭に、もっともホットな話題を入門的に解説する本連載。第2回のテーマは「Amazon」。今や売り手も買い手も無視できない巨大マーケットであるAmazonにおいて、出品者はどのように対応するべきなのか? 第1回に続き、デジタルマーケティングのスペシャリストが集まるアイプロスペクトから橋本俊紀さんを迎え、Amazonで売るために必須のAmazon広告について解説していただいた。
マーケットプレイス? 自社ECサイト?
成長著しいEC市場に乗り出そうと思ったら、企業の選択肢は大きく分けて2つ――マーケットプレイスで売るか、自社ECサイトで売るかです。マーケットプレイスはAmazonや楽天といった電子モールに出店すること。自社ECサイトは、自社のブランドサイトなどを構えて直接ユーザーに販売します。
それぞれの特徴を挙げると、マーケットプレイスは、Amazonや楽天ユーザーからの売上が見込めます。レコメンドアイテムやバスケットなどから「ついで買い」ユーザーとの接点が生まれるのも魅力で、自社ECの施策では届かない機会が生まれる場としては非常に有効です。ただし、企業側での運用管理コストと自社データが蓄積しないという点から、顧客情報を活用したCRM(顧客管理システム)施策への展開力が薄いことは注意しておく必要があります。
自社ECサイトの場合は、マーケットプレイスと比較すると利益率が高く、サイト改修やアイテム変更など、自社でコントロールできる柔軟性も魅力です。また、Eメールアドレスや購入履歴、行動記録といったデータも収集できるので、CRM施策などを通じて、顧客との継続的なコミュニケーションが取れる点も大きいでしょう。その反面、自社ECサイトから購入する理由が弱いと、サイトが購入する場ではなく、ただ情報取得の場になってしまいます。売上促進という観点では、独自のセールスポイントがないと運営は難しいと考えられます。
以上のことから、マーケットプレイスと自社ECサイトそれぞれに得手不得手があることがわかります。販路という観点から考えれば、マーケットプレイスをうまく利用して売上を伸ばすことができるし、自社の製品が優位性の高い商品なら、自社ECサイトでも十分でしょう。
ユーザー層もさまざまです。ブランドサイトでのみ接触するユーザー、マーケットプレイスでのみ接触するユーザー、そのどちらも併用するユーザー。どの層をターゲットにするのであれ、オンラインでの活動時間が伸びていることを考慮すると、状況によって施策を打つ必要があることは念頭に入れておきたいところです。
最初の選択肢はAmazon一択。ただし、広告運用が必須
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日本の3大ECプラットフォームといえば、Amazon、楽天、Yahoo!ショッピングです。その中でも、Amazonは買う側にも売る側にも便利なプラットフォームとして頭一つ抜けています。それは言い換えれば、競合が存在する商品においては、Amazonに出品しなければいけない状況がつくり出されているということです。
新型コロナウイルスによる社会状況の変化によって、EC全体の需要が非常に高まっており、その中でもAmazonによる購買は急速に伸びていると聞きます。さらに、ユーザーが商品比較の際にAmazonを利用するケースが急増しているので、Amazon内の棚取りをしっかりしていないと競合にユーザーを取られてしまう可能性があるのです。
とはいえ、ただAmazonに出品すれば売れるというわけではありません。デジタルマーケティング――つまり、どれだけの人に認知させるかが重要で、そのためには広告運用が欠かせません。ほかには類を見ない独自性のある商品でもないかぎり、広告に対する意識がないと、購入につながることはほとんどないのです。
ユーザーの購買率が高いのは、検索結果が表示される1ページ目に掲載されている商品であり、2ページ目以降の購買率はガクッと下がります。そのため、適切な広告運用をして1ページ目に表示させないと、数ある商品の中に埋もれ、ユーザーの目に触れる回数が少なくなってしまいます。そうなると、新規ユーザーの獲得もできないどころか、競合商品にスイッチされてしまうことすら招き、大きな損失につながってしまうわけです。
どの企業も、検索結果の上位に表示されることが大事だということは何となく認識しています。ところが、SEOはどうするかというテクニカルな部分になると、バラつきがあるのが現状です。実際、商品詳細ページの充実度や検索したときの掲載位置などを見れば、その企業がどれだけ力を入れているかはすぐにわかります。
たとえば、「お茶」と検索したとき、検索結果の下のほうに来ていたり、古い商品がずっと出ていたり。適切な知識で運用していれば、そんなことにはならないからです。では、Amazonで売るために必須の広告運用とは何なのか。これから掘り下げていきたいと思います。
Amazon広告「スポンサー広告(旧AMS)」と「Amazon DSP」
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Amazon広告には2種類あります。「スポンサー広告(旧AMS)」と、「Amazon DSP」です。スポンサー広告は、Amazonサイト内で展開される検索連動型広告で、その特徴はセルフサービスであること、そしてクリック課金型(入札額や1日あたりの予算額を設定できる)であることです。
具体的には、検索結果ページに表示される「スポンサープロダクト広告」、検索結果ページの一番上に表示される「ヘッドライン検索広告」、そしてカテゴリーページ、または商品詳細ページに表示される「商品ディスプレイ広告」の3種類があります。「1ページ目に掲載したほうがいい」「CTR(クリック率)が高いキーワードを中心に入札をする」など、SEM(検索エンジンマーケティング)の考え方がベースになっています。
スポンサー広告最大の強みとして、他メディアにはないROAS(広告費に対してどれだけ売れたかを測る指標)を正確に把握できる点が挙げられます。使った予算の売上貢献度を確認できることにより、効率的に広告を打つことが可能になります。
Amazon DSPは、Amazon内はもちろん、Amazon外にもバナーや動画を掲載できるメニューです。購入に直接つなげるスポンサー広告と違い、まだ購入検討段階にいる人への認知を目的としています。GoogleのGDN(Google ディスプレイネットワーク)と似ていますが、大きな違いが3つあります。
1つ目は、競合のキーワードにも入札できること。たとえば、「○○茶」の出稿をするとき、競合商品である「××茶」というキーワードにも入札すると、「××茶」の検索結果に「○○茶」も表示されるということです。これはAmazonが売れる商品を優先するという考えに基づいています。
2つ目は、AmazonはGoogleのSEMよりも購買意欲の高い人が多いこと。実際、購買率も高いと言われています。そして3つ目は、Googleは検索データを保有していますが、Amazonは購買データを保有していること。Googleは検索情報を元にユーザーの傾向を考えています。Googleで検索すればするほど、興味や関心のカテゴリーはどんどん増えます。ところが、Amazonに関しては購買データや閲覧データが蓄積されます。実際に購入しているわけですから、精度が高くなりますよね。
スポンサー広告とAmazon DSPはどちらも目的が異なるわけですが、まずはスポンサー広告に優先して取り組むべきです。スポンサー広告はAmazonに出品していれば、誰でも利用できるサービスです。購買に直接つなげられるプラットフォームとしては最大級のアクティブユーザー数ですし、運用方法もある程度固まりつつあるため、初めてチャレンジしても失敗しづらい。購買だけでなく商品認知としても有効な広告メニューもあるため、ブランディング目的としても利用できると思います。
スポンサー広告を運用する上で気をつけたいこと
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スポンサー広告を運用していく上で、押さえておきたいことが2つあります。1つは、Amazonに限らず全ECに言えることですが、自社商品の売上やクリック数を把握するだけでなく、同一商品カテゴリーにおける売上シェア率やインプレッションシェア率など、競合の状況を把握することです。
「自社が昨対110パーセントの売上/粗利で満足していたら、同一商品カテゴリー全体では130パーセント成長していた」ということがありえます。自社商品の立ち位置をしっかり把握し、その立ち位置に応じた戦略を組む必要があります。
競合の情報は非常に重要で、スポンサー広告では競合商品にも入札できるとお話ししましたが、人気のない商品にターゲットしても意味がありません。本来は売れている競合商品をリタゲしたいはずです。
もう1つは、「+αの運用」です。+αとは、外部ツールの活用です。スポンサー広告は他媒体と比較して、通常の管理画面だけではできることが少ないと言われています。そのため、外部ツールを使った+αの運用ができれば施策の幅が広がり、自社独自のノウハウをつくることができます。
たとえば、現在のスポンサー広告では時間帯で入札を自動で変更するシステムがありません。均等配信の設定もできないので、仮に予算1万円を午前中だけで使いきってしまうと、その商品は午後以降、配信されません。商品によっては「夜に売れやすい」といった特性があるのに、夕方に予算切れで夜に配信ができていなかったというケースが生じてしまいます。現状では手動で設定するしかありませんが、非常に手間がかかります。当社のCommerce Intelligence & Optimization(※)のような外部ツールを使うと、時間帯別自動入札調整ができますし、何時に何個売れたのかといったレポートも出すこともできます。
外部ツールの必要性は、スポンサー広告の運用ノウハウが定まってきたことが背景にあります。スポンサー広告は2011年ごろからスタートしてもう10年近くになるので、競合と差がつきづらい状況になっているのです。
ようするに、自社のみの運用ではいずれ限界が来るということです。もちろん、ある程度までは自社のみで認知度や売上を上げることが可能です。しかし、デジタルマーケティングを追求すればするほど、こまかく確認しなければいけないことが増えて工数がかかりますし、最新情報(媒体のアップデート、競合情報)も取得しづらい。その上、自社の知見しかたまっていかないため、成長が遅くなってしまいます。
※Commerce Intelligence & Optimization(CIO)……Amazon広告の運用管理ツール。「時間帯別自動入札」「競合調査機能」「AIによる運用の完全自動化または半自動化」といった機能を有する
ECでは柔軟な戦略立案と実行が不可欠
さまざまな企業にコンサルティングする立場として、よく耳にする勘違いにも触れておきましょう。それは、ROASがすべてだと思ってしまうことです。スポンサー広告の強みとしてROASを把握できる点を挙げましたが、それは裏返せば、ROASだけ見てしまう危険性があるということです。
本来は、デジタルマーケティングの手法(媒体、配信メニューなど)によってKPI(重要業績評価指標。目標達成のためのプロセスが適切かどうかを測る)を変えるべきです。たとえば、各媒体のプレミアム掲載枠はCPCが高騰するので、ROAS観点で見ると非常に効率の悪い掲載枠となるため、「効果が良くない」と判断されがちです。ところが、認知度アップや競合ブロックの観点ではかなりの効果があると考えます。このように、配信メニューごとにKPIを変えて運用することが重要なのです。
また、ROASを上げることだけを考えると、「自社商品のファン」中心に配信することになるので、効率が良くありません。たまに、クライアントから「ROASを取れるだけ取ってほしい」と頼まれることがあります。ROASを取れるだけ取るなら、新規獲得はしない方向で戦略を立てます。新規に見せるより、購入履歴のあるお客様にリタゲしたほうがROASは上がるからです。
ただ、それでは意味がありません。目標ROASを500パーセントと明確に決めて、確実に500パーセントを下回らないように運用し、ROASが600パーセントになりそうなら、その分の予算を新規獲得へ回す。これが理想です。その両輪で回せば、1年間での総売上だって伸びるのです。
これはROASに限らず、スポンサー広告とAmazon DSPの使い分けにも当てはまります。本稿では、まずはスポンサー広告に専念すべきと書きましたが、それはマス向けの広告を一切やめて、すべてスポンサー広告に絞ったほうがいいというわけではありません。
定期的に行われるセール時期であれば、予算を潤沢に使った企業はかなり優位です。ただし、セール時期以外で同じように予算を使うと、いたずらにCPCが高騰してしまうだけです。ですから、全体で1000万円の予算があったら、スポンサー広告で400万円、マス向けで600万円を使ったほうがいい場合もあるのです。
「何となくEC」に対する意識を変えよう
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コロナ禍で多くの企業がECを意識するようになりました。ECといっても、販路は多様化しており、アパレル系で多くみられる越境ECはさらに勢力が強まっています。2020年にはFacebook shopのローンチもありました。また、ライブコマースの分野も対応する企業が多くなってきている印象を受けます。フリマアプリの隆盛にも見られるように、C to Cのやり取りも盛んです。
つまり、「コロナ禍だから」「何となくECがきているから」という理由では、何をしていいのかわからないし、結果も伴いません。だからこそ、まずはAmazonでの展開に注力する。同じマーケットプレイスでも、Amazonと楽天では運用方法が異なりますから、マルチに展開するのは後回しでいいかもしれません。
自社のブランドサイトはいずれ必要になります。ブランドイメージの理解や購入促進という観点での役割は重要だからです。開始規模にもよるので一概には言えませんが、経験値を蓄積しているエージェンシーやコミュニティーから事前に情報収集するなど、ある程度準備を進めた上で開設するというプロセスは大変重要です。また、スケーラビリティーを有する協力者をうまく探し出すという活動も欠かせません。
ECというと、「実店舗を持たなくてもいい」「人件費を割かなくてもいい」といった考えから、EC担当は1人で、その担当者も違う業務をやっていることがほとんどです。私の肌感だと6~7割が、1人か2人でECを担当しています。それではいつまで経っても売上率を上げたり、シェアを拡大したりすることはできません。
Amazonチームとしてしっかり人数をそろえて動いている企業もあります。Amazonを重要な販路として認識している証拠です。安易なEC戦略では歯が立たないどころか、格差はますます広がるだけだと心しておくべきだと思います。
橋本俊紀(はしもと・としき)
アイプロスペクト・ジャパン株式会社 アカウントマネジメント2部所属 アカウントリード。ECにおける広告運用、戦略提案や、Amazon広告運用最適化ツールの企画・導入コンサルティング、EC運用ツールとテレビ放送データを連携させるプロジェクトなどに携わる。