top of page
検索
執筆者の写真Byakuya Biz Books

地域ポイント「めぐりん」は地域経済を救う魔法なのか?

更新日:2021年8月20日



地域ポイント「めぐりん」が地方創生の現場で注目されつつある。めぐりんとは、高松市を中心に県内で約500カ所のお店や施設で利用できる地域共通のコミュニティーポイント。特定の地域のみで流通する地域通貨の一種だ。2009年のスタート以来、紆余曲折しながらも利用者を増やし、現在では20万枚以上のカードを発行している。めぐりんは果たして、地域通貨の成功モデルなのか? その中心人物2人に成功の秘けつを聞いた。



地域通貨を発行すれば、地域は潤う!?


大澤 地方におけるお金の問題は非常に深刻で、お金は都市部に流れてしまい、地元の商店街に落ちないという状況です。めぐりんは、そうした社会問題を解決するため、地域でお金を循環させる一つの道具として普及させてきました。


地域通貨は経済の活性化だけでなく、コミュニティーも活性化をさせる目的があると言われています。とくに、お金では価値を表せないボランティアをはじめとした非営利活動に対して、地域ポイントという形でインセンティブをお渡しして、地域内の活動やコミュニティーの活性化を図ることに力を入れています。

ただし、地域通貨やポイントを発行するだけでは、地域は潤わないと思っています。なぜなら、通貨やポイントはあくまで道具に過ぎないからです。大切なことは、地域通貨を使ってどんな地域の課題を解決するのか、どんな目的を達成するために地域通貨を活用するのかということを明確にすることが必要不可欠であると考えています。


サイテックアイ株式会社(めぐりん運営会社)大澤佳加さん


善生 いまの地域通貨に近いモデルに、幕末(江戸幕府の末期)から明治初期にかけて流通した藩札があります。この藩札は、発行された領内のみでしか利用できない紙幣なので、現代に置き換えて想像すると、たとえば私の地元は香川県なので、香川県でしか利用できないお金を香川県庁が発行しているといった感じですね。


ちなみに、明治24年に書き著されている松方正義の『紙幣整理始末』によると、明治4年の廃藩置県までに藩札を発行していた実績は244藩・14代官所・9旗本領とあり、全国諸藩の約8割にも達していたと言われています。


しかし、これらの藩札は、藩の財政赤字補填のために発行されており、やむをえず増刷され続けた藩札は価値が低下し、いわゆるインフレ状態(お金の価値が下がる)になってしまったと言われています。


歴史的にみても、藩札しかり地域通貨しかり、あまりうまく活用できなかったというイメージが強く、こうした捉え方が近代経済史研究者による典型的な藩札濫発論ではないかと思いますが、一方で、これは表面的な理解しかできていないのではないかという見解もあります。


たとえば、藩札制度をうまく活用し内需拡大を図り、領外からの金銀貨の流入増大につなげていたという藩もあり、その藩札の効果は高く、幕末になっても安定的に流通していたという藩札濫発論とは異なる事例もしばしばあります。

藩札は、江戸時代からさまざまなものとの交換手段として利用されており、領内の財政を豊かにするために発行し広く浸透した結果、資金決済という側面から藩の財政を支えていたといっても過言ではありません。


これは、現代においても同様で、地域通貨を活用し域内の課題解決をする方法論の一つとして十分な効果があると考えており、藩札の歴史や資本主義経済を支えてきた先人の知恵をふり返り、そこに隠されたヒントをひも解くことで、域内の消費喚起やコミュニティーの活性化を実現するための有効な手段であると信じています。


サイテックアイ株式会社(めぐりん運営会社)善生憲司さん


いまは江戸末期とはもちろん状況は違いますが、地域通貨も藩札も同じような役割を担っていると言えます。その役割とは、域内の経済を豊かにすることと、そこに携わる人たちの人間関係を豊かにすることの2つです。

ただ一つ気をつけないといけないことがあります。それは、地域通貨や地域ポイントは、あくまでも人や物やお金の流れを円滑にするための潤滑油であるということです。そして、目的を果たすための手段であるということを最初にしっかりと認識する必要があります。


これまで多くの地域通貨やポイント事業の取り組みを見てきましたが、なぜか地域通貨や地域ポイント事業をやることが目的になってしまっており、立ち上げ当初、勢いのあるうちは目的と手段がテレコになっていても気にならず、ただひたすら導入することにばかり気を取られ、大切な目的(目指すべき姿)があいまいなまま事業がスタートしているケースが往々にしてあるんです。


その結果、時間が経ち、事業がうまく進展せず、行きづまったときにようやく「いったい何のためにこの事業をやっているのだろうか」と我に返るわけですが、時すでに遅しといった状況で、そこから盛り返すためには相当の労力とコストがかかってしまします。

地域通貨は魔法の杖ではありません。仕組みを導入しただけでは、地域は活性化しませんし、そこに住む人たちも豊かにはなりません。お金と同様、どのように使うかが重要であって、その使い方によっては良くも悪くもなりえます。我々が目指している地域通貨事業とは、経済を豊かにすると同時に人の心も豊かにする、正に論語と算盤を兼ね備えた取り組みであるということをまず強調したいですね。



地域通貨が主軸に置くべき、コミュニティーの活性化という役割


善生 コミュニティーの活性化こそ、地域通貨が主軸に置くべき価値といっても過言ではないと思います。地域通貨を利用することで、いったい誰が喜んでいるのか、誰のために役立っているのかということを考えると、自然とこの答えが出てくるのではないでしょうか。

実は今でこそ、いろんな経験から相応のノウハウもたまり、どこで何をすれば良いのかということにある程度自信をもってお話しできるようになりましたが、もともと2009年の6月にスタートした我々の地域ポイント事業も、最初はただのお買い物ポイントサービス(めぐりんポイント)として始めたというのが正直なところです。


当初、知り合いのお店や紹介などで40店舗ほどの加盟店が集まりましたが、半年も経つと導入したお店からは、利用者も少ないし費用効果もないから解約するというお店があいつぎ、スタートから1年後には加盟店がゼロになってしまいました。

そこで、これまでの展開方法や地域通貨・ポイントのあり方について見直しを行い、しっかりと反省するとともに本来の地域通貨の役割とは何なのかを学ぶこととなりました。

とはいえ、加盟店がゼロになってしまい路頭に迷っていました。そんなとき、たまたま地元の商店街(高松兵庫町商店街)から、ポイントや電子マネーの導入を考えているので、説明に来てもらえないかとのご連絡をいただいたんです。


高松兵庫町商店街


当時の理事長は、決断力と行動力のある方で、このお話をいただいてから約3カ月で準備から導入までをやってのけた手腕の持ち主です。秋の臨時総会のあと、年末には導入計画を立て実行に移していたことをいまでも鮮明に覚えています。


また、商店街のポイントなので、お買い物をすれば貯まるというのは当たり前ですが、商店街活動にもポイントを付けるという発想をお持ちでした。だから、毎月商店街で行っている清掃活動に参加した方へお茶やジュースを配る代わりに、地域ポイントを付与する。そして、貯まったポイントでクリーニング代を支払ったり、ケーキを買ったり、美容室のカット代にあてたり、さまざまな生活で利用することができるというイメージをいち早く理解し実践していただけたんです。


また、いまでこそ全国的に普及している自治体や企業の健康増進のためのウォーキングポイントも、2011年に公に始めたのは兵庫町商店街が初めてではないでしょうか。2013年には、高松市の協同企画提案事業として高松市長にも参加していただき、商店街に来るお客さまに対して歩数計を配り、お買い物をしている間の歩数に対して地域ポイントめぐりんを付与するという、当時は斬新な取り組みを行いました。


お買い物に対するポイント付与といった経済的行為に対するインセンティブだけではなく、ボランティアや健康といった非経済活動(地域活動)にもポイントを付与し、そのポイントを商店街で使ってもらうことで、経済とコミュニティーの活性化にもつなげていったのです。


商店街での導入をきっかけに、徐々に加盟店が増え、コミュニティー活動もさらに強化していきました。その一つが、寄付という仕組みです。地元のさまざまな社会問題に対して非営利目的を掲げ、日々活動をしているのがNPO団体ですが、資金集めをすることが得意ではないので、これらの団体が継続的に支援を受けられる仕組みがないものかと考えてつくったのが、地域ポイントで寄付をするという取り組みです。


その後は、地元のバスケットボール(Bリーグ)やサッカー(Jリーグ)チームとも連携し、地域スポーツの応援をすることにも役立てられるような仕組みを提供しています。地域スポーツは、地元の人たち(サポーター)に支えられて成り立っていると言っても過言ではありません。そのサポーターが、普段の生活で地域ポイントを利用すると、利用金額の一部がチームのホームタウン活動に役立てられるという仕組みです。


スポーツを通して地域を元気にするというスポーツチームと、ポイントを通じて地域活性化を目指すというめぐりんは、ともに「地域」というキーワードが一致し、連携することとなりました。


現在のカード発行数は20万枚以上にのぼる



めぐりんが成功した要因と今後の課題


善生 この10年、めぐりんはいろいろな地域団体や商業団体と連携することで拡大してきました。とくに、最初の高松兵庫町商店街と連携は非常に大きなきっかけでした。加盟店はバラバラに増えればいいわけではありません。


導入当初は、エリアを特定せず東から西まで、加盟店がランダムに広がっていたのですが、お客さまの行動範囲とポイントが貯まるお店との商圏が合っておらず、貯まりにくい、使いにくい状況になっていました。しかし、商店街という核をつくることでポイントが貯まりやすい環境ができて、その結果、周辺の加盟店へも広げやすくなったのは事実です。

もちろん加盟店を増やすことは容易ではありません。加盟店に対する経済的なメリットをしっかり示す必要があります。地域活性化が大事だという総論は賛成ですが、きれいごとだけでは事業が成り立ちません。現場では、損得を交えた話にも当然なります。


大澤 私は当時、営業をしていましたが、加盟店になってもらうために、タウン誌で数万円かかる広告枠を加盟店料の中で補えるとか、SNSやHPで紹介するとか、ポイントサービスに価値を感じてもらえるような付加サービスをつけましたしね。


善生 本来は地域通貨事業の理念をしっかり掲げておくべきですが、理念ではメシが食えないので、経済的なメリットも同時に満たさないといけないという現実をどのようにクリアしていくかが焦点となりますね。


そのほか、地域通貨でよく問題になるのは、大きな初期投資(カード発行費用や端末費用など)がかかることです。実際、カードや端末、システムなどをまともに構築すると、すぐに何千万という投資が必要になります。当然、我々にはそんな資金はありませんでしたし、もしその投資を行ったとしても、回収するためにお客さまへコストを転嫁したところで、その価格は非現実的な数字になることが容易に想定できます。


実際、めぐりんポイントがスタートした2009年頃は、端末機もカードも今の何倍もの価格で、機能もいまよりはるかに劣っていたことは言うまでもありませんが、当初は、イオングループの電子マネー「ご当地WAON」と連携し、グループのインフラやリソースを共有させていただくことで、初期投資を抑え、ユーザーメリットをいかに見出すことができるかを一番に考えていました。


イオングループもまた、電子マネーWAONを自社のサービスとして展開するだけでなく、地域のインフラとしてお客さまに開放することで、地域発展の一役を担うというお話を聞き、互いの強みを生かすことで新たなシナジーが生まれることに期待し胸膨らませていたことをつい先日のことのように思い出します。


最近では、アプリやQRなどの利用が徐々に増えており、全体的なコストが下がったことで、導入のハードルは一気に下がった


めぐりんポイントは今後、行政との連携を強化し、地域活性化の一役を担っていくことが重要であると考えています。現在、民間事業として運営しているものの、社会インフラとしての環境整備を行うためには、行政との連携がマストです。最終的には日本でも、地域通貨(デジタル通貨)を活用した行政サービスが当たり前のように受けられる時代が来ることも、そう遠くないのではないでしょうか。


大澤 行政政策として地域通貨を活用すると、大きな経済効果を生むことができます。具体的な例として、韓国の京畿道(キョンギド)という地方都市の地域通貨があります。韓国でも地方のお金がソウルに流れてしまうという問題意識があり、2018年に京畿道が地域通貨政策をはじめたんです。


社会保障費などを地域通貨で賄っていて、災害基本所得が本格的に支給され、道内の自営業者10人に6人の割合で売上が増えたことが報道されています。京畿道は2020年に入り、地域貨幣の発行規模を約4千億ウォン(約350億円)増やすと言われていて、「地域通貨の拡大発行を通じて消費を活性化させ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で危機に瀕した小商工人の売上を増やすとともに、商店街を活性化するために発行目標額を上方修正した」と発表しています。


善生 いまは行政主導の取り組みが広がりつつありますが、行政にありがちなシステムやハードをつくるだけでモノをつくったら終わりということがないように、事業を推進するための実施体制を構築し、導入後の運用をしっかりとサポートする必要があります。


そして、行政が中長期的な視点で総合政策の一環として事業を計画し、民間事業者や大学などとのコンソーシアム(共同事業体)により、運用並びに効果測定を行うことで、効果的な社会インパクトを与えることできるはずです。


また、お買い物で貯まるポイント加盟店だけでなく、地域のさまざまな団体と連携し、コミュニティーを繋ぐ活動を継続していくことも不可欠です。行政事業はほとんどが単年度事業であるがゆえに、システムを導入することに精一杯で、そのほとんどが初期費やランニングコストに費やされ、ユーザーへの周知やサービス向上のための予算がほとんど組まれていないケースが多いように思います。繋ぐ、広げるといった活動費も予算計画の中にしっかりと組み込んでおく必要があることをしっかりと認識する必要がありますね。



ポストコロナで果たせる地域通貨の役割


大澤 コロナで状況が大きく変わったいまだからこそ、地域通貨にしかできない役割があるはずです。たとえば、給付金をどうするかという話になったとき、「貯蓄されてしまう」という懸念がありました。滋賀県の高島市は全国に先駆けて、市民に地域通貨(地域通貨「アイカ」)で1万円支給しました。

小さな飲食店をはじめ、地元でお金を回そうと思ったとき、地域通貨なら行き渡らせることができます。消費期限があり、利用できるエリアも限定されている。これは地域通貨や地域ポイントでしかできないことです。

善生 円は有効期限がなく、タンス預金になってしまう可能性があります。一方、地域通貨には3つの限定があります。期間、エリア、目的です。期間を限定することができるので消費を喚起するスピードが早くなり、有効期限内に地元で消費をしてもらうことができます。さらに、用途も限定できるので、災害や感染症のような有事に、とくにダメージを受けている業種をセグメントし、効果的な支援をすることもできるんです。


子育て、スポーツ・文化、動物愛護など、さまざまな地域活動を支援


大澤 地域通貨を円の補完通貨として、地域の課題を解決できる道具としてとらえたとき、子育てや障害者問題など、地域の社会的な問題への答えにもなりうるものだと思っています。


経済の活性化はもちろん大切ですが、集めたポイントで地域のNPO法人を応援したり、営利目的でない貯め方をする人もたくさんいます。めぐりんがコミュニティーを活性化できることをもっと周知して、みんなでやさしい街にしていきたいですね。

 

めぐりん

運営会社:サイテックアイ株式会社

香川県高松市上之町2-8-27

TEL:087-899-6513

 

あわせて読みたい

羅臼昆布の名人が語る 第一次産業従事者のあるべき姿

bottom of page