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執筆者の写真Byakuya Biz Books

知れば生きやすくなる「HSP」と心理学 『繊細さんの心理学』インタビュー(前編)


「HSP」とは、Highly Sensitive Person(ハイリー・センシティブ・パーソン)の頭文字をとった略称で、「感受性が強く刺激に対して敏感な人」のことを指す用語である。心理学の領域では1990年代から提唱されている概念だが、最近では「繊細な人」を表す言葉として一般的にも注目が高まってきているので、聞いたことがある方も多いかもしれない。そんな中、9月30日に『魔法のように人づき合いがラクになる 繊細さんの心理学』という本が出版された。著者は現役の大学講師で心理学者の藤巻貴之先生。今回は藤巻先生がどのような思いでこの本を執筆したのか話を聞いた。



「繊細さ」を上手に扱うというアプローチ


――最初に、今回出版された書籍について、どんな内容かというところからお伺いしたいと思います。


今回は繊細さんと呼ばれる、HSPに焦点を当てた内容になります。実際に今、繊細さんとかHSPってすごく注目されていて、興味を持ってもらえるテーマだと思うんです。学生にも「今度こんな本が出るんだよ」なんて話すとよく興味を持ってくれています。


それで、この書籍の中では繊細さんとはどういう人なのかっていうことをわかりやすく説明しています。そして、その方々がどういうふうに社会の中で人と関わっていくと無理なく自分らしく過ごせるのか、それを見つける事ができるような内容として作っています。


その具体的なものとして、繊細さんが使えるんじゃないかという、人づき合いで使える心理学のテクニックを厳選して掲載させていただきました。各テクニックがどう作用するのか、そういう部分も心理学の知識をベースにして伝えているものですね。


――その中で、見どころというと、どんな部分になりますか?


そうですね……やっぱり人づき合いの中で使える心理学テクニックを多く掲載しているので、そこに注目してほしいですね。自分の生活とか、自分自身の個性とか、そういったものに合わせて、「これは自分だったら出来るかな」っていうものを気軽に試していただけるのが良いんじゃないかなと思ってます。


――この本では繊細さんについての解説もされているので、読んだ方はなんとなく理解していると思うのですが、この記事から入っていただく方々へ向けて、まず簡単に繊細さんっていうどういう人たちなのか、教えていただけますか。


「繊細さん」という言葉はメディアの中で名づけられたものですが、「Highly Sensitive Person」略してHSPという概念だと考えています。HSPは元々、心理学者のエレイン・アーロンという方が提唱をしていて、その人の研究を基に進んできているということになります。

その特徴として挙げられるのは、ひとことで言うと「感受性が強い」っていうのがわかりやすいのかなと思います。そのままイコールではないですけど、感受性が高いことによって、何か社会の中での生きづらさみたいなところに繋がっているというふうに言われています。


ただ、私は繊細さんだから、HSPだから必ず生きづらいんだとは言いきれないと思っていて、書籍の中でも繊細さを強みに変える方法とかを書かせていただいたんですけど、やっぱり実際には生きづらい部分もあるんじゃないかなと思います。


その生きづらさは、いろいろな書籍でも説明されていたりしますが、外部の刺激に対して過剰に反応するという、感受性の高さに繋がってくるものだと思っています。例えば、相手の言動の場合、そこまで意図されたものではなかったとしても、それを過剰に自分のほうで受け取ってしてしまうとか、そういうことですね。


あとそれに合わせて、ちょっとした刺激で気分が変動しやすい、影響を受けやすいという特徴もあると思います。そういうところを考えていくと、日常生活の中でいろいろな負担が大きくなってくるってのがわかりますよね。

ただ一方で、そのHSPの特性として、いろいろな細かいところに気づくというものもあります。


例えば、綺麗なものを見たら「ああ、綺麗だな」とか、「これはすごく良いデザインだ」とか、美的感覚に対してもその感受性が高い傾向があるものです。これは音楽とか芸術とかの分野で生かしていくことができる特性だと思います。書籍の中でもそういう説明をさせてもらっていますけども、よく気づくからこそ先の対応を考えることができるとか、繊細さを上手に扱って、社会の中で生活できるようなものとして考えられるんじゃないかなっていうアプローチで書いています。


――「繊細さん」と聞くと、ちょっと傷つきやすかったりとか、日々が生きづらかったりとか、何かとマイナスなイメージを持たれがちなところですけど、それはマイナスばかりではない、ということなんですね。


そうですね。そういうマイナスなところって、方向性はさまざまだと思いますが、私たちみんな何かしら持ち合わせていると思うんです。それをどういうふうに改善したり、適切な距離で関わるか、どうしたらお互いに負担がないのかっていうのを調整しながら生活してるんだと思います。


――履歴書とかで、「短所は長所の裏返しを書くべし」と言われるみたいな。そういう考え方で、繊細さもプラスに持っていくことができるということでしょうか。


まさにそうですね。


藤巻貴之(ふじまき・たかゆき)

ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校を卒業後、目白大学大学院現代社会心理学研究科修士課程修了。現在は目白大学・社会学部社会情報学科専任講師として心理学系の講義を複数担当。専門は社会心理学で、おもに対人コミュニケーションや社会的相互作用など。心理学系の書籍出版が多く、名高い渋谷昌三先生に師事。



アドラー心理学で、また少し生きやすく


――今回の本は、心理学と繊細さんを組み合わせた内容だと思うのですが、そもそもの部分で、心理学ってどんな学問なのか、そこもお話いただけますでしょうか。


心理学ってすごく大きな枠の中にいろいろな分野が入っている学問領域なんです。その中でも大きなものとしてあるのが、実験とかをやって人が外部の情報をどうやって脳で認識して受け止めてるかを考える「基礎心理学」と、それを社会の中でどういうふうに生かしていくのかを考える「応用心理学」と呼ばれる2つの分野ですね。


今回の本の中にも入れている「人づき合いのテクニック」などの内容は、応用心理学の分野になります。私は社会心理学が専門なのですが、社会心理学は応用心理学の中の1つに入るものです。いずれにしても、そのベースにあるのは私たちの内面的な部分でどういう働きが起こっているのかを理解しましょうというものです。


社会心理学で言うと、実際に人と人がコミュニケーションを取る場面において、聞いてる側がどういうふうに興味を持ってくれているのかとか、あとは逆に関心を失っているのかというものを捉えて理解するなど、相手の内側と自分の内側とを見ているものになります。そう考えると、人がいるところはすべて心理学が関わっているとも言えるんじゃないかなと思います。



――本の中では、ストレスとの付き合い方とか、アドラー心理学にも触れられていましたよね。


アドラー心理学などは臨床心理学と呼ばれる分野です。わかりやすく言うとカウンセリングですね。いろいろな本が出版されているので、みなさんもご存知だと思うのですが、数年前からアドラー心理学はすごく注目されているんです。その要因の1つとして、自分自身を変えるというよりも、自分自身を受け入れるというところに治療の焦点を当てているっていうのがポイントなんだと思います。


――アドラー心理学というと『嫌われる勇気』のイメージが強いですが、大元は自分を受け入れることなんですね。


何かわかるじゃないですか。自分っていうものを大切にすると、それに共感をしてくれない存在は必ずいるんです。そうなった時にただ相手の主張に共感ばかりしてしまうと、今度は自分の心が疲弊していってしまうわけです。


――それで言うと、やっぱり繊細さんと呼ばれる方々は共感力が強い傾向にありますよね。


そういう傾向の強い人は、自分の心を疲弊させながらまわりに合わせてしまいがちなんです。そこで、アドラー心理学のような「自分を受け入れる」という考えをちょっとでも知っておくと、また少し生きやすくなるんじゃないかなと思っています。


場を荒らさないというのはとても大事なことだと思うんですけどね。そのために言うべきこととか、自分が求めていることを抑え込んで……抑え込みすぎてしまうとそれは長期的に考えた時にすごく問題があるわけです。例えば、夫婦とか親子関係とか、長期にわたるものもそうですし、職場の関係でも場合によっては何十年も同じ人たちと関わっていくことになるので、そういう時に一時的な良い顔をするみたいなものが必ずしも良い結果を生むとは限らないのかなっていう気がします。


――そういう場面でも実際に使える心理学テクニックから、そうした心の考え方まで、全部が1冊に収まっているというのが印象的です。


そうですね。ありがとうございます。


※後編では、「ビジネスと心理学」の視点に踏み込んでいきます。


 
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