休日に街中やショッピングモールなどで見かける大道芸――それは、路上で不特定多数の観客にパフォーマンスを披露し、投げ銭を得ることで生計を立てる仕事。マジック、ジャグリング、楽器の演奏など、多種多様なパフォーマンスが存在するが、中でも異彩を放つのが、新感覚のブレイクダンスで人気を博すしょぎょーむじょーブラザーズ。コロナ禍は大道芸を生業にするパフォーマーたちにどんな影響を与えたのか? そもそも二人は大道芸人なのか? パフォーマーとして生きる道を探る。
大道芸ってどんな仕事?
――大道芸やストリートパフォーマンスなど、いろいろな呼び方がありますよね。お二人は自分たちのことをどう定義していますか?
Toshi-Rock ダンサーですね。 しょぎょーむじょーブラザーズを始めたのは路上からで、大道芸の活動が多いんですけど、営業や学校講演に行ったり、いろいろな活動をしています。
――路上パフォーマンス=大道芸という理解でいいんでしょうか。
Toshi-Rock 日本ではそうだと思います。大道芸の業界では、何をやっても許されるというか、何を見せてもお客さんが喜べばいいというか。だからブレイクダンサーもいるし、ジャグリングする人もいるし、マジックする人もいるし、コメディアンもいるし。それらをひっくるめて大道芸なので、僕らも大道芸人というカテゴリーに入ると思います。
HIRONAGA ただ路上パフォーマンスというと、ゲリラパフォーマンスの印象を持つ人も少なくないんです。
Toshi-Rock 僕たちはソラマチや上野公園など許可を取ってパフォーマンスをしていますけど、ゲリラパフォーマンスは許可を取らずにやっているんですよ。それもすべてひっくるめて大道芸人と思われるのはつらい部分ではありますね。
――パフォーマーの皆さんを守る業界団体ってあるんですか?
Toshi-Rock あるのかもしれないですけど、小さすぎてあまり知っている人はいないと思います。基本的には一匹狼が多いし、横のつながりはあっても、小さいコミュニティでまとまってしまって、全体を応援する形にはなりにくいんですよね。
HIRONAGA 組合があるわけではないので、パフォーマーの立場としてむずかしいものがありますね。
Toshi-Rock 僕らは2人でやってますけど、ほとんどはソロで、最初はライセンスもなければ路上でやるしかない。ルールなしに無許可でやってしまうと、この業界にいい影響は与えないので、許可を取った場所でやるほうがいいんですよね。
――許可はどうやって取るんですか?
Toshi-Rock 場所によりますが、こちらからパフォーマンスをさせてほしいと場所の所有者に許可を取ることもあれば、ショッピングモールからイベント会社に依頼があって、イベント会社から大道芸人が呼ばれるパターンもあります。
――上野公園はパフォーマンスしている方が多いですよね。
Toshi-Rock 上野公園がパフォーマンスしている確率は高いですね。ポイントが5カ所ぐらいあるんですよ。
――上野公園も許可制ですか?
HIRONAGA ヘブンアーティストという、東京都が運営しているライセンスがあるんです。年1回の審査会に通過するとライセンスがもらえて。そのライセンスを持っていることが必要で、その上で電話予約です。
――……電話予約!?
Toshi-Rock いまだにそうなんですよ。その電話もめちゃくちゃつながりにくい……。先着順なので、電話をかけまくってつながればラッキーなぐらい。つながっても運が悪ければいい場所を取れないですしね。
HIRONAGA いい場所を取れても雨が降ったら終わりです。
Toshi-Rock あとはめちゃくちゃ暑いとか。日陰にしかお客さんが集まらないんです。
――なかなかヘビーですね……持ち時間は決まっているんですか?
Toshi-Rock 大道芸は30分ですね。中には40分やる人もいて、当日一緒になる人たちで話し合うのがふつうです。
HIRONAGA 上野公園の場合は1時間枠で予約を取るので、その中で準備と片付けもします。パフォーマーの中には20分のショーを1時間に2回やる人もいて。上野公園だとそれができるんですよね、人の流れも多いので。
Toshi-Rock 僕らは1時間に2回は体力的にきついのでやらないですけどね。
――1日に最大で何回パフォーマンスするんですか?
Toshi-Rock 4回はありますね。
ソラマチでのショーの模様(2022年5月)
――私はソラマチではじめてお二人のパフォーマンスを拝見したんですけど、裏方のスタッフを見かけなかったのは……。
Toshi-Rock 大きいフェスは別ですが、大道芸にはオペはいないんです。ショーで流す音楽の切り替えはタイミングが重要なので、自分たちでやりますけどね。
HIRONAGA ですから大道芸するときは、別のパフォーマーが少しうしろに行って音量をチェックしてくれたり、歩道の点字ブロックにお客さんが立たないように見てくれたりしますよ。
――そういえば私が見たとき、Toshi-Rockさんはほかの人がパフォーマンスしているときに交通整理されていましたね。
Toshi-Rock 人が集まりすぎて無秩序になってしまうと、お店に迷惑をかけてしまいますし、点字ブロックをふさいで事故を起こしてはいけないですからね。
――ソラマチだとどのくらい集まるんですか。
Toshi-Rock 各回200~300人ぐらいだと思います。
――そのうち、投げ銭はどのくらいの割合で?
Toshi-Rock おそらく4割ぐらいでしょうね。
――大道芸以外に営業や学校講演もあるとおっしゃっていましたが、活躍の場は幅広い?
Toshi-Rock 営業だとショッピングモールのほか、最近ではサッカーJリーグの試合、プロバスケットボールのBリーグに呼ばれました。また企業パーティもありますね。学校講演というのは、地方だと学校にパフォーマーを何人か呼んで、学校行事として行われたりします。あとは……大道芸フェスティバルみたいなのがあるんですよ。
――大道芸フェスティバルとは!?
HIRONAGA 横浜市の「野毛大道芸」や静岡市の「大道芸ワールドカップin静岡」が有名ですね。静岡は来場者数が100万人規模だったと思います。今はコロナで開催されていないんですけど。
――100万人はすごいですね。
HIRONAGA 市内全域でやるんですよ。海外ゲストも10~20組ぐらい来て。
――ちなみに、大道芸の業界にもトップランナー的な人がいる?
HIRONAGA トップクラスの人、大きい仕事に呼ばれる人たちはいます。大きいイベントだと出演者の半分ぐらいが被っていることもあります。
Toshi-Rock 日本で三大大道芸フェスティバルがあって、それに出ているような人たちですね。どんな業界でも世代交代はあると思いますけど、大道芸は第一世代がまだ一線で活躍している業界です。ショッピングモールをはじめ、ゲリラではない仕事になったのは、ここ20年ぐらいだと思うんですよ。それまでは警察に注意されようが何しようが路上でやっている人が多くて、そもそもライセンスの制度が整っていなかったですから。その意味でまだ若い業界と言えるかもしれないです。
ブレイクダンス+組技+お笑い=唯一無二のショー
――結成は2011年ですよね。
Toshi-Rock そうですね、当時は僕とHIDEというメンバーで始めました。
――Toshi-Rockさんがこの道に進んだきっかけはなんだったんですか?
Toshi-Rock 僕は北海道出身なんですけど、高校のときにダンスの魅力に取りつかれて、レベルアップのために大阪に行ったんですね。だけど、なかなか結果がともなわなくて。ダンスといえばダンスバトルなんですけど、ダンスバトルでそんなに結果が残せず。ダンスで食っていこうと考えたとき、ダンスを教えることがメインになるんですが、当時はそれほど魅力を感じなくて。もともとダンスをはじめて見たのが路上でのブレイクダンスだったのでストリートでやろうと思ったら、それが結果的に大道芸だったと。
ただ、一人でダンスのパフォーマンスをやっても鳴かず飛ばずだったんです。そのときにHIDEが京都の「GEAR」という舞台に出ていて。HIDEはブレイクダンスをダンスバトルやレッスンではなくてステージでやるという感覚を持っていたんです。そこで声をかけてくれて。2人で何かやろうと思ったとき、大道芸を見に行ってみたら、投げ銭がバッサバサ入っていた。僕はそこに主軸を置いていなかったけど、仕事として希望があるかは重要でしたから、大道芸をやってみようと。あとはブレイクダンスで大道芸をやっている人がいなかったのも大きいですね。
Toshi-Rockさん/昭和59年生まれ、北海道出身。b-boy battle 九州優勝、USJ ハロウィンパレード 2009出演、USJ スタントオーディション 2010合格のほか、ダンスインストラクターも務める。数多くのダンスバトル入賞経験、商業施設やイベントでのパフォーマンス経験あり。
――今は東京を拠点に活動されていますよね。HIRONAGAさんとは東京で?
Toshi-Rock そうですね。大阪からHIDEと東京に出てきたんですけど、「GEAR」が東京にも進出していて、HIRONAGAが出ていたんですよ。そこでスカウトして入ってもらいました。
――HIRONAGAさんもダンスが好きで始めたのでしょうか。
HIRONAGA 15歳のときから好きだったんですけど、この道で食べていこうとまでは思っていなかったですね。ダンスで食べて行ける道ってあんまりないんです、特にブレイクダンスの場合は。どちらかというと大会に出て活躍したいなと思っていました。
――加入したのはいつですか?
HIRONAGA 2018年ですね。
HIRONAGAさん/平成2年生まれ、北海道出身。WDC2010北海道代表、Superfly 「黒い雫」MV出演、American Eagle CM出演、舞台『ギア-GEAR- 』EastVersion出演のほか、数々のダンスバトル、コンテストで優勝経験あり。ブレイクダンスレクチャーのYouTubeチャンネルの登録者数は7万人を超える。
――いつもどのくらい練習されるんですか?
Toshi-Rock 集まるのは週に3~4回、1日3時間ぐらいですね。
――お二人はショーでアクロバティックな技も披露されていますよね。あれもブレイクダンスなんですか?
Toshi-Rock ブレイクダンスではなくて、スポーツアクロバットの中の「ハンド・トゥ・ハンド」というもので、一種の組技ですね。
――組技はいつ取り入れたんですか?
Toshi-Rock 最初からですね。ブレイクダンスって体力をものすごく使うんですよ。30秒踊るだけでバテバテになってしまうので、それを続けるのはコストパフォーマンスが悪い。組技は一つの技だけで1分ぐらいは見せることができます。見せるまでにいろいろタメもつくることができるので、その意味でお客さんの満足度も上げることができるんです。
組技の一つ
――なるほど。お笑いのエッセンスも取り入れていて、エンタメとして楽しいショーになっていますよね。私が見たときも多くの人で盛り上がっていて驚きました。
HIRONAGA やはり人が多いほうが集まりやすいですね。ちょっと見てみようという気持ちになりますから。ファンが3人ぐらいのときは、そこに加わるのは勇気がいりますけど、10人が見ていたら入りやすい。
Toshi-Rock 一人でちょっと寂しそうに見てるお客さんもそのことを忘れさせる感覚が大事です。
――パフォーマンスしていて、お客さんの雰囲気は感じ取れるんですか?
HIRONAGA その場を立ち去るか、残ってくれるかはだいたいわかります。おそらくその場に立ってみると、誰でも感じられると思う。
Toshi-Rock 場の空気はいろいろ読みまくっていますよ。お客さんとのコミュニケーションもやりすぎると逆に気持ちが離れていってしまう。いい距離感のやり取りが大事です。ダンスのスキル的なものはできて当然で、あとはどれだけお客さんをひきつけるか。
HIRONAGA そこもおもしろい職業ですね。チケットを売っているわけではなくて、通りがかりの人は別にパフォーマンスを見たいわけでもない。それなのに、ふと見てみたら楽しんでしまった。強制はしてないけど、よかったら投げ銭していただく形で。いまだにちょっと不思議な仕事だと思いますね。
しょぎょーむじょーブラザーズのこれから
――お客さんが多い時期はあるんでしょうか。
Toshi-Rock 桜のシーズン、ゴールデンウィーク、お盆、クリスマス……カレンダーどおりです(笑)。
HIRONAGA 逆にイベントがない2月や天候の悪い梅雨時期は少なくなります。
――なかなか安定しないお仕事ですよね。
Toshi-Rock コロナ前はそれでもなんとか予想ができたんですけど、コロナ後は指標がないですね。イベントがすべてストップしたから、もう一度取りに行く状態になっているんじゃないかな。そこでどういう動き方をするかが重要というか。
HIRONAGA この仕事はバラシになることが多いんですよ。仮押さえまではたくさん来るけど、その先がないとか。
――仮押さえがあるんですね。
HIRONAGA イベント会社からもらう仕事は、イベント会社が最初にパフォーマーのスケジュールを抑えて企画を持ち込むんです。だからしょうがない部分ではありますね。
――天候も産業としての仕組みも、自分たちの意思でどうにもならない要素が多いと。
Toshi-Rock そうなんです。だからちょっといろいろ考えているんですね。自分たちでコントロールできないことが多くて、その上今はコロナで仕事が激減して。コロナ前までは大道芸、営業、学校講演……とありましたけど、コロナでお金が発生する仕事が減って、大道芸に頼らざるをえなくなってしまった。
HIRONAGA コロナの給付金も最初は下りるか微妙だったんですけど、大道芸でも下りるようになってホッとしましたね。
――今年に入って、ウィズコロナになったというか、多少はコロナ前に戻りつつある印象ですが……。
Toshi-Rock 僕らはショッピングモールをはじめとした営業が増えてほしい部分があるので、その点で言うとまだまだですね。ああいう場所はまだ積極的にたくさんの人を集めないですからね。だから「戻ってきたんじゃない?」とよく言われますが、全然ですよね。
――やはりパフォーマーとしては活動を続けることで知名度を増して、活躍の場を増やするのが理想ですか?
Toshi-Rock 大道芸に関して言うと、あまり知られてないほうがいいんです。なぜかと言うと、何回も同じショーをやりますよね。だから前にも見たことがあると、「あー、またやってるね」と投げ銭の単価が下がってしまう。1回のパフォーマンスで100人が見てくれたとして、1億人に見てもらうまでにどれだけかかるか、という話なので。有名になりたいという意思でやっていないと思いますね。僕らはまたちょっと違うんですけど。
HIRONAGA よく「有名になれるようにがんばってね」と言われるんですけど、規模を大きくしていくとステージショーになっていきますよね。その分、人を増やしたり設備を増やしたり。一方で大道芸は失敗を笑いに変えたり、お客さんと近い距離でコミュニケーションしたり、臨機応変にやっているので、今のまま大きくなるというものでもないんです。
Toshi-Rock それで言うと、場所によって立ち位置は変わるんですよ。ソラマチのように多くの家族連れが集まる場所ではちょっとした人気者になり、逆に市の公園などで見ると「この人たちは食えているのか?」と思われるぐらいの状況のこともあって。片や学校講演に行くと「かっこいい! 芸能人?」という反応もあって。
――有名になりたいわけではないとすると、今後はどんなビジョンを?
Toshi-Rock 有名になるのがメディアに出るという意味ならそのつもりはないんです。どちらかというと、運営側に回っていきたいと思っています。今、考えているのがダンスバトルを開いて、ブレイクダンサーに喜んでもらうこと。そこからダンススタジオをつくる。ブレイクダンサーとして仕事をして、いろいろな場面で活躍できるというレールをつくりたいんです。
――なるほど。学校でダンスの授業があったり、Dリーグ(日本発のダンスのプロリーグ)もありますし、ダンス人口は今後も増えていきそうですよね。
HIRONAGA そうですね。なので、まずはイベントを開催している人に協力をあおいで、実績をつくろうと。市民ホールやクラブといった会場を借りるのって、けっこうむずかしいんですよ。特にクラブは会社が運営しているものですから、貸したことがあるかどうかが重要で。ですから開催することで、その会場とのつながりもできます。また、誰が主宰したイベントなのか、大会に出る人は覚えていることも多い。そんな観点から、まずはイベントを打つことが大事だと思っています。
――有名になっていろいろなところでパフォーマンスするだけが生きる道ではないと。
Toshi-Rock それもできるとは思うんですけど、年齢のこともありますし、だんだん稼ぎが減っていくのが目に見えているので。
HIRONAGA この道を考えたのはコロナになったから、と言えますね。コロナ前は海外に行く予定がいくつも入っていて、練習の毎日でしたから。
Toshi-Rock どの業界もセオリーがありますよね。でも、それでは不自由というか、活躍できない人もいると思うんですよ、僕がそうだったから。誰かに使われるのが好きじゃないのかも(笑)。だからダンスイベントをやるというチョイスになった。やはり独自の道をつくることができることを伝えていきたいですね。
しょぎょーむじょーブラザーズ