累計28万部のベストセラー「瞬読」シリーズの著者であり、開校8年でグループ30校にまで広げた塾経営者、最近ではEMI高等学院もスタートした山中恵美子さん。誰もがうらやむ大成功を収めた山中さんが、自身の経験から成功の秘訣をまとめたのが新刊『「何もない」こそ最高の武器になる 何も持っていなかったフツーの主婦だった私が、たくさんの夢を叶えたちょっとした方法』(Gakken)である。「瞬読」ではなくなぜ自己啓発書なのか? 本書にまつわる話をご本人に聞いた。すでに同書を読んだ人は振り返りやあらためて行動を促すきっかけに。未読の人は気になったら本屋で手に取ってみよう。山中さんとある1冊の本の出合いのように、もしかしたら、あなたの人生を激変させるきっかけとなるかもしれない。
わざわざ(?)自分の失敗を本にした理由
――本書は累計28万部の「瞬読」シリーズではなく、初の自己啓発書です。これを書こうと思ったきっかけは何ですか?
本書の担当編集者である杉浦博道さん(※)にお声がけいただいたんです。ただ最初はあまり乗り気がしなかったんですよ。この本は自分の経験から成功法則をまとめたものなんですけど、私の過去は自慢できるものじゃないし、失敗を語るのも気が引けるから……。
※杉浦博道さん/山中恵美子という名前を世に知らしめた本『1冊3分で読めて、99%忘れない読書術 瞬読』(SBクリエイティブ)を手がけた編集者。SBクリエイティブやかんき出版を経て、現在はGakken所属。
――過去を語ることに対して葛藤があったんですね。
そう。私には人に誇れる学歴もないし、職歴もほぼなし、ビジネスの知識もない。資格は免許証ぐらい。財産なんて1億円もなくしてしまって。人脈といえばママ友ぐらいでしたから。でも、杉浦さんは「それがいい」と言ってくれて。何も持っていなかったフツーの主婦だった私が、今ではテレビに出たり、取材を受けたり、たくさんの人に応援してもらえるようになった。その過程を見てきた杉浦さんが、「山中さんには何かあるはずだから、それを言語化できたら絶対にいい本になるよ」ということで執筆がスタートしました。
――今の山中さんだけを見たらお手本にしづらいかもしれないですけど、過去の話を聞くことで「自分でも!」という気持ちになれそうですよね。
実際、「すごく勇気をもらった」とか「落ち込んでいたけど、元気になりました」といった感想をいただくんです。Amazonのレビューでも★5が多くて驚いています。今までの本――たとえば最初の『瞬読』はどちらかというとネガティブなレビューも少なくなくて。勉強というかノウハウ本だから、「できなかったから★1」みたいなレビューが多いんですね。
だからレビューはそういうものだと思っていたんですけど、今回の本では等身大というか、カッコつけずにすべてをさらけ出したから、共感していただけたり、同じように悩んでいる人の力になれたりしたのかもしれません。
山中恵美子さん/株式会社瞬読代表取締役社長、通信制高校EMI高等学院学院長、株式会社ワイイーエス代表取締役社長
1971年、大阪府生まれ。甲南大学法学部卒業。卒業後、関西テレビ放送株式会社での勤務を経て、2003年に自身のそろばん塾を開校。2009年には学習塾SSゼミナールを兵庫県西宮市で開校。8年で30教室、約2万人の生徒が卒業。学習塾にて、学習効果を上げる方法の一環として、速読を取り入れる。これが後の「瞬読」となり、生徒の成績が上がり、次々と難関校に合格。そのノウハウをまとめた「瞬読」シリーズは累計28万部のベストセラーに。2023年、メタバース、海外留学コース等が学べる通信制高校サポート校「EMI高等学院」を設立。
「なんで自分だけ……」を変えた、1冊の本との出会い
――過去の自分と現在の自分を比べて、一番変わったと思うことはなんでしょうか。
頭の中身、考え方が変わりました。お金がなかったときは利己的で、損得で物事を判断していたんですけど、今は利他的で、善悪で判断するようになりました。その結果、自分たちがよければいいと考えていたときに比べて、人のためや社会のために行動している今のほうがすごく幸せですね。
――何がきっかけで変わったんですか?
西田文郎先生が書いた『No.1理論 ビジネスで、スポーツで、受験で、成功してしまう脳をつくる「ブレイントレーニング」』という本を読んだんです。そのとき初めて、自分が口に出す言葉や頭で考えていることが自分をつくることを学びました。当時は余裕もなくて何もかもうまくいっていなかったから、人と比べて「なんで私だけ友だちがいないんだろう」「なんで私だけお金がないんだろう」とすごく落ち込んでいたんですよ。でも、「あの人、ムカつく」とか「なんて自分はツイてないんだろう」といったネガティブな思考こそが、ネガティブな状態をつくっていることに気づきました。ずっと他責で考えていたんです。
――どこで西田先生の本に出合ったんですか?
地元の公民館です。まだ塾を立ち上げる前、36歳ぐらいのときで、子どもはまだ小学校の低学年と幼稚園児でした。とにかくお金がなくて、スマホもなくて毎日やることもなかったので、子どもを幼稚園に送った足で公民館に行っていたんですよ。冷房代も節約できるし。
――その後の山中さんを変えたわけですから、すごい出合いになりましたね。
それまでは自分のことしか考えていませんでしたからね。「人間は、人に喜ばれるために仕事をするんだ」「自分の生涯を世のために生かす」といった言葉を読んで、「私は今まで誰かに感謝されたことがあっただろうか」「ありがとうと言ってもらえる生き方をしてきただろうか」。そんなふうに自分を見つめ直して、人に喜ばれる生き方をしようとパッと切り替わったんです。その後、学習塾を開業するんですけど、塾なら人の役に立つこともできるし、自分の子どもに勉強を教えることもできると考えて。
――塾を始めることに迷いはありませんでしたか?
逃げ道がなかったんです。お金が日々減っていくから考える時間もないし、これだったらできるかもと思えるものがほかに見つからなかった。それまでの経験といえば、テレビ局でADの端くれみたいな仕事ぐらいで、特別なスキルが身についたわけでもなかったから。塾は自己資金がほとんどいらないので場所さえあれば誰でもできる。資格もいらない。もうほかに選択肢がなかったんです。
“何もない”からできること
――本書には素直であることが大事だと書かれています。山中さんは西田先生の言葉を素直に受け取ったわけですが、素直=何でも受け入れろ、ではないですよね?
そうですね。自分が信用する人や大好きでくりかえし読んでいる本など、素直に受け入れられる素地がないと、何でもかんでも流れてきた情報を受け入れてしまうかもしれません。その上で私は「この人の言うことを素直に聞いてみよう」と思ったら、自分でアレンジはいっさいしないです。その人のことを信用して、言われた通りにするのがまず早いと思うから。
――たとえ尊敬する人の言葉だとしても、自分の考えとは違うことはありえますよね。そんな場合でもいったん受け入れますか?
いったん受け入れます。そもそもうまくいっていないから、意見を聞くわけですよね。うまくいっていたら、誰かに意見を求めないと思うんですよ。うまくいってなかったり、何かきっかけが欲しいから勉強したり、本を読んだり、セミナーに行ったりするはず。それなのに「いや……」とか「でも……」とか言うなら、聞かなければいいと思うんです。
――素直に聞くって案外難しそうですが……。
「何もない」が武器になるっていうのは、そこなんです。知らないから素直に受け入れることができる。中途半端に賢いと、「そのやり方はちょっと……」と言いたくなるかもしれない。それは自分に知識や経験、自信があるからだと思うんですね。
私には何もなかったから、素直に聞けたんですよ。たとえば、もし私にある程度の英語力があったら、何かアドバイスされても「いや、私はこういうふうにやってきたから」とか言い返したくなるかもしれません。でも実際はまったくしゃべれないから、「この本を読んでみたら」「この単語帳をやってみたら」と言われたら、それをやるしかないんです。
――なるほど。しかもすぐに行動に移せますね。
そうです。お金もかからないし。何かを聞かれてすぐに返信したり、いいことを聞いたらすぐ行動に移したりするのは、やろうと思ったらできるじゃないですか。どうしても理屈っぽく考えてしまうようでも、とにかく「はい」と一度受け取ってみる。何かを頼まれたら「わかりました」と「はい」の2択にする。
誰でもできるのに多くの人がしていないことって意外とあるんですよ。私は毎朝6時に起きて朝活しているんですね。今日(取材当日)で940日ぐらい続いているんですけど、よく「すごいですね」と言われます。でも、誰だって本当はできるはずです。やれないことの理由の一つは、素直に聞けないからだと私は思いますね。
それでも1歩を踏み出せない……そんな人にいくつかアドバイスを
――山中さんがお金も経験も何もなかったとき、最も欲しかったものはなんですか?
支え合える仲間です。
――お金ではなく?
お金はなくても我慢できるけど、誰からも必要とされないのは生きていく上でとてもつらいですね。仕事でも何でも、誰かのためにというモチベーションがないと続かないんですよ。喜んでくれる人や応援してくれる人が一人もいなかったら、おそらくできない。
当時は一人ぼっちで、本当に誰も応援してくれなくて。塾を立ち上げて最初にアルバイトの子が来てくれたときは、とにかくこの子たちを大切にしようと思いましたし、それ以来ずっと人を大切にする気持ちは変わらないです。やはり人は人によって成長するし、人が縁や仕事を運んできてくれる。お金はあとから付いてくるものだと思います。
――本書でも人間関係についてページをかなり割いていますが、それほど重要な要素であるわけですね。
もう欠かせないですね。人と関わることの大切さは1冊通して伝えているつもりです。すべては誰と出会うか、どんな人と一緒にいるか、どんな仲間がいるか。それで人生は決まると思います。
――さまざまな努力を経て今の生活を手に入れたと思いますが、山中さんにとって「運」はどのくらい重要でしょうか。
10割です。すべて。ただ、運はボーッとしていたらたまたま落ちてくるものではありません。運が10割だと思っているからこそ、どうやって運がいい人と出会うか、運気のいい場所に行くか、運を引き寄せるためのアンテナを張ることが大事です。
――本書では一貫して読者に行動を促しています。それはいいことが起こるのを待っているのではなくて、自分から積極的に動けというメッセージでもあると。
運はじっと待っていても降ってきません。だから、とにかく動いてみること。そもそも、いくら頭で考えても答えは出ないんですよ。正解か不正解かはやってみないとわからない。恋愛と一緒で、あの人と付き合っていいかずっと迷うぐらいなら、一度付き合ってみればいい。ダメだったら明日別れてもいいし。仕事も同じで、動いてみないと結果は出ないんです。
だから、とにかく自分から「成功しているな」と思う人のそばに寄っていくんです。成功している人は運がいいに決まっているから。そういう人が集まる場所もそう。うまくいきたいと思ったら、運気のいい人、場所を見つけて行動を起こす。
くり返しになりますけど、縁や知識ってすべて人が運んでくるものなんですね。自分一人で知りえることはすごく少ない。私は杉浦さんと出会ってものすごい人生が変わりましたし、そういうきっかけとなった人がほかにもたくさんいます。
――言い訳したくなるときってあります?
ありますけど、言い訳をしても何も好転しないと思っているので、行動しない(できなかった)理由を考えるより、どうすればできるかを考えるようにしていますね。
また、もし相手がいる場合なら、言い訳をポジティブに受け取ってくれる人はいないと思うんですよ。だから、何かしてしまったのなら、素直に謝るべきで、「次はもっと早く気づけるようにします」とか「こんなふうに改善します」といった先のこと、ポジティブな会話をしたほうがいいと思います。
――では最初の一歩、何から始めればいいでしょうか。
まずは1日10分でいいので、素直になったり誰かに感謝したりする時間を持つこと。そうすれば、次第に考え方や言葉、行動も変わるはずです。私は昔、レストランで店員さんがメニューを聞くのが遅かったら「チッ」と思うような小さい人間でした。ささいなことが気になったり、人を責めたりしました。
そこからガラッと考え方を変えたことで、人とのご縁や運を引き寄せることができた。自分の内面が変わるとここまで人生は変わるのかと実感しました。だからもし人生に少しでも迷いがあるなら、今日から行動に移してみてほしいですね。
■書誌情報
『「何もない」こそ最高の武器になる 何も持っていなかったフツーの主婦だった私が、たくさんの夢を叶えたちょっとした方法』
山中恵美子・著/発行 Gakken/判型 四六判、248ページ/ISBN 978-4-05-406910-7/https://hon.gakken.jp/book/1340691000