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執筆者の写真Byakuya Biz Books

「ゆっくりしていってね!!!」をイラスト化した絵師が語る、AAの魅力と可能性



「ゆっくり」を起点としたインタビュー2本目は、かの有名な「ゆっくりしていってね!!!」のAA(アスキーアート)をイラスト化した絵師、まそさんだ。「2ch全AAイラスト化計画」というサイトの管理人であるまそさんは、これまで実に2315体(3月20日時点)ものAAをイラスト化している。「ゆっくりしていってね!!!」をイラスト化した経緯や理由のほか、AAの魅力や現在についてなどもお聞きした。



「ゆっくりしていってね!!!」をイラスト化


――まずは「ゆっくりしていってね!!!」のAAをイラスト化したときのことを教えてください。最初にこのAAを見たのはいつでしたか?


初めて見たのは2007年の12月ごろ、2ちゃんねるの「ニュース速報(嫌儲)板」です。


――そこはどういう板なんですか?


いろんなニュースで雑談する、雑談系の板です。雑談系の板なんですけど、ニュースの話題だけじゃなくて、いろんな内容のスレッドが立っていました。その中に、「東方Project」の定期スレもあったんです。そこをなんとなく見ていたら、「ゆっくりしていってね!!!」のAAが貼られていて。初めて見たのはそこなんですけど、気づいたら東方のスレとは関係ない、普通のニュースについて雑談しているスレでもAAが貼られているのを見るようになりました。


――いろいろなスレに貼られていたんですね。


脈絡はなかったですね。スレが立ったら、2番目か3番目のレスにはもう誰かがAAを貼りつけていて。「ゆっくりしていってね!!!」が言葉どおりの意味なのか、荒らし目的なのかはわからなかったんですけど、僕としては前者の意味合いで解釈していました。


――まそさんはもともと2ちゃんねるのAAをイラスト化する活動をしていますよね。彼女たちをイラスト化しようとした動機は何ですか?


動機は単純で、独特の表情が気に入って、イラストにしたらどうなるかなと興味がわいたからです。

まそさんが運営する「2ch全AAイラスト化計画


――イラスト化したとき、何か反響で覚えているものはありますか?


僕のサイトの掲示板やメールに反響が寄せられたというのは全然なくて、気がついたらイラストを使ったコラ画像がいろんなところでバーッと広がっていって。それからしばらくして、「イラストを使わせてもらえませんか?」といった問い合わせが来るようになりました。


――まそさんがイラスト化した中で、ここまで広がったのは東方以外にありますか?


ここまでのものはないですね。それはやはり東方の力だと思います。


――イラスト化するにあたって、苦労した点は?


AAを見たときの独特の何とも言えない表情、そのイメージを崩さないようにするのは苦労しました。AAの印象とイラストにしたときの印象はやっぱり変わってきてしまうんです。イラストは描く人の解釈によってもどうしても変わっちゃいますから。


――ここまで広がったのはやはりニコニコ動画の影響でしょうか。


あの頃はFlash動画ですね。2003~2004年あたりが2ちゃんねるのAAを使ったFlash動画の最盛期だったと思うんですけど、当時はモナーやギコ猫、八頭身とか、AAのキャラが激しくアクションしたり、動いたりするFlash動画がたくさんあったんです。


AAに興味を持ったきっかけ

――モナー、なつかしい……! まそさんの印象に残っているAAはなんですか?


難しいな……やる夫かな。イラストにしたのは2006年の7月8日ですね。これは「ニュース速報板」でAAを見てすぐにイラスト化しようと思ったんですけど、AAのムカつく感じがなかなか表現できなくて。たしか2回くらい修正していると思います。「こういう描き方をしたほうがもっとAAの雰囲気に近くなるかな」と修正をくり返して、今のバランスになっているんです。


――ムカつく感じというのは、やはり表情でしょうか。


そうですね。目とか口とか含めて。

ν速でやる夫


――最初にイラスト化したAAはなんだったですか?


4大AA(2ちゃんねるを代表するAAキャラ「モナー(オマエモナー)」「ギコ猫」「しぃ」「モララー」のこと)です。今の若い人がどこまで覚えているかはわかりませんが、当時はこの4体がメジャーで、よく使われていました。


左からモナー、ギコ猫、しぃ、モララー


――イラスト化するとき、色はどうやって決めているんですか?


AAが好きな人は自分でイラスト化してグッズを作ったり、同人誌を作ったり、Flash動画を作ったりしていたんですね。ただAAにはもともと色がありませんから、絵師の自由だったんです。


それでも、なんとなく共通認識的なものが不思議と出来上がっていて、AAの色は単純に全部白という派閥と、4大AAでいうとモナーが白、ギコ猫が青、しぃがピンク、モララーが黄色というふうに色を塗っている派閥の2つがありました。僕もそれにのっとった形です。


――まそさんが2ちゃんねるのAAをイラスト化しようと思ったきっかけはなんだったんでしょうか。


当時、いろんなところでAAが使われていたんですけど、はじめてAAを見たとき、「こんなのあるんだ」と衝撃を受けて。それから、AAを 専門で扱う「モナー板」ばっかり見ていました。


そしてあるとき、秋葉原で「キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」というAAの湯のみを購入したという書き込みを見て、AAのグッズが存在することをはじめて知ったんです。実際に秋葉原に行ってみたら、AAを使った同人グッズを売っている店があって。そこでこんな世界があるんだと知って、のめり込んでいきました。2ちゃんねるに特化した同人誌即売会に参加したり。


その後、自分でも描いてみたいと思うようになって、当時、『2ちゃんねるぷらす』という雑誌の読者投稿コーナーや、2ちゃんねるのネタを専門で扱う「ちゃんねるぼっくす」というサイトの画像掲示板に投稿していました。


キタ━━(゚∀゚)━━!!


――どんなAAを投稿していたんですか?


意識していたのは、「有名だけど、みんながあまりイラスト化しないAAをイラストにすること」です。みんなモナーとかギコ猫とか、人気のあるAAをイラスト化していたので、おもしろいし目立つと思って。


そんなことをしていると、もっと描きたくなってくるんですね。だけど、画像掲示板に連続で投稿していたら、荒らしみたいになってしまう。また、雑誌やWebサイトに投稿しようと思ったら、ある程度テーマに沿ったものを描かないといけないので、そこまで自由になんでも描けるわけでもありませんでした。だからもう自分のサイトを持ったほうがいいなと考えるようになって、イラスト化計画の構想ができました。2003~2004年ごろのことですね。



このままAAが廃れてしまってはもったいない!


――2ちゃんねるは5ちゃんねるに変わるなど、いろいろな変化がありましたね。何か思い出深い出来事はありますか?


2ちゃんねるが一般的に認知された、2005年ごろの「電車男」ですね。ドラマ化されたり、映画にもなって。このあたりがピークというか、一番盛り上がっていたように思います。その翌年にニコニコ動画やYouTubeが出てきて、2ちゃんねるだけではなくなった感じなんですよね。今の若い人たちはTwitterをはじめとしたSNSに移りましたし。


――AAをあまり見かけなくなった今の状況をどう思いますか。


ひとことで言うと、もったいないなと思います。なぜAAがこんなに使われなくなったのか、いくつか説があるんですけど、よく言われているのが次の3つです。1つめは、単純に2ちゃんねるの人口が減ったことで、AAを作る職人がYouTubeの動画作成などに流出してしまった。


2つめは規制ですね。2ちゃんねるの管理人がジム・ワトキンスに変わってから、AAに対する規制が厳しくなったんです。その結果、大きいAAを貼ると、規制を食らって書き込みができなくなってしまうようになった。つまりAAに対する規制が厳しくなり、貼る人が減ってしまったというもの。


そして最後の3つめは、スマホが普及して、スマホで2ちゃんねるを見るのが当たり前になったこと。これがなぜ原因になるかというと、スマホだとAAが扱いづらいんです。AAをコピペする操作もやりづらいし、そもそもスマホで見たらAAがちょっと崩れてしまう(※)。僕の単なる推測ですけど、一番大きい理由は3番目のスマホの普及だと思っています。


※AAはMS Pゴシック12pt、行間は2pxでないとズレてしまう。要は2ちゃんねるの仕様になっているかどうかという話

おにぎり

――なぜ、もったいないと思うんですか?


もし、AAの完全上位互換の表現方法が生み出された結果、AAが廃れていくのだったら、納得はできるんですよ。もう時代の変化かなって。たとえば、ファミコンのようなドット絵が進化して3Dになり、ドット絵が廃れる。そんな進化ならまだ納得できます。


でも、スマホっていうハードウェアの都合でAAが廃れてしまうのはあまりにもったいない。AAは表現としてまだ可能性があるし、需要もあると思っています。AAは表現方法としてまだ楽しめるものです。スマホのほうでなんとかしてくれよっていう気持ちなんです。


――AAにそこまで魅力を感じるのはどんなところですか?


最初は、いろんな記号や外国の文字を組み合わせることで、丸みのあるキャラクターを表現できることに衝撃を受けたんですけど、AAの世界をさらに知った上で思うのは、ハードルの低さです。文字の集合体だから、絵心がなくても、イラストを描けない人でも扱うことができます。


AAを改変するにしても、メモ帳やテキストエディターがあればできる。これが画像だったら、「Photoshop」など初心者には難しい専門的なアプリを使わないといけません。画像の一部を切り抜くとか、専門知識や操作方法を知らないとできないですよね。でもAAならメモ帳一つあれば、簡単にできます。ハードルが低いということは、それだけ裾野が広いということです。するといろんなAA作品が生み出されて、どんどん進化していく。そこが一番の魅力だと思っているんですよ。


――ハードルの低さでいえば、AI絵師はどうでしょうか。


可能性はあると思います。ただ、現時点ではまだ時間がかかると思いますね。


――AAが廃れてしまっては、まそさんがイラスト化するモチベーションにもかかわりそうですね……。


モチベーションにも多少関わっていますね。昔に比べて、更新頻度はガタ落ちしていますし。ただ更新頻度に関しては、やはり新しいAAが生まれなくなったことが大きいですね。昔だったら、何かニュースが出るたびに、新しいAAが生まれていました。


たとえば、2019年に日産自動車の元会長カルロス・ゴーンが海外に逃亡したことが大きく報道されましたよね。あのとき、空港でトランクケースに隠れていたことが話題になって。あれ、昔だったら確実にAA化されていたはずなのに、結局作られなかったんです。ニュースについて雑談はするけど、AAは生まれなかった。


――なるほど。AAは雑談を彩る一つの華でもありますもんね。


華がなくなるとさびしいですよね。僕はAAがあったほうが絶対にいいと思っています。自分がネタにしたいからというよりも、AAがあったほうが2ちゃんねるはおもしろい。


――YouTubeやSNSの隆盛を見るかぎり、2ちゃんねるが昔の勢いを取り戻すことはなさそうですが、AAも廃れていくのは避けられないでしょうか。


そうですね。だからといって、サイトを閉鎖しようとまでは思っていません。更新頻度は落ちましたけど、たまに更新するぐらいで続けていこうかなと思っています。



【ゆっくりインタビュー】


 

まそさん

2ch全AAイラスト化計画管理人。2006年のサイト開設以来、さまざまなAAをイラスト化している。 2ch全AAイラスト化計画http://riceballman.fc2web.com/frame.html

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