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執筆者の写真Byakuya Biz Books

元・お笑い芸人はなぜ「のぼり屋」になったのか?(前編) 集客のマンネリを解消する「のぼり旗」のヒミツ

更新日:2021年8月20日



福岡県福岡市には、多くのベンチャー企業やスタートアップが集まるビルがある。そこで元・お笑い芸人という異色の経歴を持つ社長が「のぼり旗」専門の会社を経営しているという。その会社の名前はエンドライン(株)。取り扱うのぼり旗には一風変わったものが多く、製作実績は1万7000件以上。はたして、なぜ、元お笑い芸人がのぼり旗専門の会社を立ち上げたのか? また、のぼり旗だけで事業を継続できるのか? その戦略を代表取締役の山本啓一さんに聞いた。



販促の常識「安い」「早い」よりも「効果」をアピールして違いを生む


のぼり旗は集客力アップを目的とした販促ツールの一つですが、WEBやチラシ、看板広告といったほかの媒体に比べて、低コストで取り替えが簡単なため、費用対効果が高いのが特長です。


だから、のぼり旗を扱う会社はたいてい「早い」「安い」を売りにしています。ネットで検索すれば、ほとんどが同様の文句で差別化を図ろうとしている。でも、本当に重視すべきなのは「効果」です。のぼり旗を使う目的は集客ですから、できるだけ多くの人の目に留まる方法を考えなければなりません。


では、どうすれば、効果のあるのぼり旗が作れるのか? 一言でいえば、視認性を上げることです。のぼり旗の形や見せ方を変えると、人の目に留まりやすくなります。エンドラインでは4コママンガを使ったのぼり旗をはじめ、トリックアートののぼり旗など、趣向を凝らした商品をたくさん用意しています。


ギザギザや矢印、ウェーブなど、さまざまな仕様で視認性を上げる


「効果」に注目した商品展開をすると、先方の担当者にもメリットが生まれます。それは、自社での稟議が通りやすくなることです。担当者はたいてい決裁権を持っていないため、上司に相談したり、プレゼンしたりする必要があります。そのとき「安い」「早い」だけでなく、「効果」を提示することで納得感を与え、結果、自分の業務がスムーズに運べ、上司の評価も上がります。


何社から見積もりを取るとか、ちょっと変わったものを見つけるとか、先方の担当者は大変なんです。できるだけラクして見つけられることに越したことはありません。そうした担当者レベルのニーズを満たすことも意識しています。そのためには、自社の商品が先方でどう受け止められるかをしっかりイメージしないといけません。


そうしたこともふまえると、効果はできるだけ数値で出してあげたい。そのために、どういうデザインにすれば、お客さんの視認性が上がるのかをノウハウ化したうえで、モニター募集をして分析も行います。のぼり旗を立てることで客数がどう変わったかを分析して、レポートとしてまとめているんです。見た目が変わっているだけではなく、それを裏付けるものも提示しているんです。



「のぼり旗専門」だから、「効果」「早い」「安い」をすべて満たすことができる


現在のところ、多くの会社は「早い」「安い」を売りにしていて、あまり変わった形ののぼり旗は扱っていません。なぜかというと、「安い」「早い」を重視した企業文化からは、4コママンガやトリックアートののぼり旗といった商品は生まれないからです。お金も手間もかかるんです。


のぼり旗を扱う会社はたいていほかの販促ツールも展開しているので、自社で扱う商品の一つでしかないんです。でも、エンドラインは事業をのぼり旗に絞っているので、「効果」のある商品を作ることができるだけでなく、「安い」「早い」も同時にクリアすることができます。


事業を一つに絞ることで、コストを抑えることができて、マニュアル化がしやすくなります。のぼり旗が使われるのは、1日限定のイベントだったり、住宅展示場で使われるようなものだったり、一過性のものから長期的に使われるものまでさまざまあります。


その用途に応じて使う素材が変わるのですが、国内と海外の工場をネットワーク化しており、のぼり旗に使用する素材に合わせて、適切な工場を選び製作しています。だから形にこだわったのぼり旗でも、他社とそん色ない値段で作ることができるわけです。


エンドライン(株)代表取締役の山本啓一さん


マニュアル化をしやすくするために、自分たちの業務フローが崩れるような仕事はしません。たとえば、以前取り扱っていた看板施工もその一つです。売り上げが自社の30パーセントを占めていたので、やめるのには勇気がいりましたが、看板施工は業務フローがはんざつになってしまうんです。


のぼり旗の場合は「問い合わせ→見積もりを出す→デザインする→工場に発注する」と、とてもシンプルです。一方、看板施工の場合は、「問い合わせ→現地に見に行く→デザインする→工場に発注する→現地に設置しに行く」。一見、のぼり旗と似ていますけど、看板の場合は雨が降ったら設置できないので、別日を設定しなければいけません。イレギュラーな要素が多いんです。


パンフレットも同様です。写真を撮りに行くことをはじめ、クリエイティブな要素が入る比率が大きくなります。マニュアルに全部落とし込めない。デザイン以外はすべてマニュアル化する。問い合わせはすべて10分以内に電話するとか。お客さんからの問い合わせから納品まで、1本しか道がないようにしています。


事業をのぼり旗に絞っているからこそ、ユニークなアイデアも生まれやすくなります。実際、4コママンガ、トリックアートをはじめ、新商品を2カ月に一度リリースしてきました。のぼり旗はほとんどが長方形です。この形の中でどのようにデザインするか?を考えたほうが、アイデアは出やすいんです。漠然と「広告案を出して」と言われたら、おそらくアイデアは出ないでしょう。



「元・お笑い芸人」を生かしたブランディング


販促ツールは差別化がしにくいので、どこも「早い」「安い」をアピールするしかないのが現状だと思います。でも、エンドラインは「おもしろいのぼり旗を作る会社だ」ということをアピールするために、私が元・お笑い芸人であることを最大限に利用しています。


具体的に言うと、「ウチはおもしろいことをやっていこう。おもしろいというのは、目立つから効果が出るね。なぜ、そんなことができるかといえば、社長が元・お笑い芸人だからね」。そこまでを一つのストーリーとしてパッケージにしているんです。元・お笑い芸人の社長がつくる、ユニークで効果のあるのぼり旗。そういうブランディングです。


のぼり旗のデザインはほぼ社員が担当。おもしろいアイデアを評価するしくみ、自由な発想が生まれる社内風土がある


今は「元・お笑い芸人」という肩書きを活用していますけど、実はあがり症で、何かおもしろいことを言えるような人間じゃありませんでした。中・高時代はクラスで目立った存在というわけじゃなくて、部活をすれば後輩に抜かれ、成績も下から数えたほうが早かったぐらいです。


でも、高校3年生になったとき、一念発起して勉強して、当時、難関だった福岡大学に入学したんです。ただ、せっかく入学したのに、大学のフワフワした雰囲気になじめませんでした。中高はレールが敷かれていたのが、急に自由になったので。


高校と違って、授業に出なくても誰にも何も言われないから、そこで糸が切れてしまったんです。友人関係もなじめなくて、だんだん行かなくなりましたね。ただ、それは大学のせいじゃなくて、自分の問題なんですけど。当時はアルバイトも1日や1週間で辞めていたほどなので。


結局、大学4年のとき、母親に引導を渡される形で、大学を辞めました。学費を払ってもらっていたので、気持ちは楽になりましたね。今は経営者として福岡大学に講演で呼ばれることもありますが、和気あいあいとしたムードはまだ苦手です(笑)。


大学を中退したあとは、内装工事の職人見習いを1年経験しました。「ダメな自分」というのがわかっていたから、鍛えようと思って。そして、職人生活を送っていたある日、テレビでダウンタウンさんを観たんです。ブレイクした頃だったと思いますが、めちゃくちゃおもしろかったんです。


ぼくはあこがれに弱くて、「芸人っていいな」と思ったんです。そして、すぐに福岡吉本に電話しました。福岡では博多華丸・大吉さんが出てきたところだったので、2人の荷物持ちをさせてもらえるかもしれないという淡い期待もありました。ところが、なんと2週間後の舞台に出ろと言われてしまったんです。


「人を笑わせたことなんてありませんよ!」

「おもろいな~。そんなやつおるんか!?」

「それに、一人じゃ何もできないですよ……」

「じゃあ、そこにおるやつと組んでデビューすればいい」

そんなやりとりの結果、その日初めて会った人とコンビを組むことになりました。


お笑い芸人時代。給与は月額45円(テレビ朝日『ソノサキ~知りたい見たいを大追跡!~』より)


ぼくたちは福岡吉本の芸人16組が参加する舞台に出演していました。その舞台はランキング制で、お客さんの票が少ない人から舞台に上がる。つまり、一番人気のあるコンビが最後に出るわけです。ぼくたちはずっと15位でいつも最初か2番目に舞台に立ちます。この順位だと持ち時間は短いし、何を言ってもウケません。お客さんも「最初に出てくる人たちはおもしろくない」という先入観を持っていたと思いますので。


ネタを工夫しても一向にウケないから、思い切ってインパクトだけをねらった、出オチ的なネタをやったんです。派手な衣装を着て、化粧をして、ただ歌うっていうネタ。すると、おもしろくはないけど、3位に入れたんです。そして、3位になったときに、15位のときにやっていたネタを試したら、非常にウケました。「3位だからおもしろいだろう」という先入観なんですね。おもしろい人は何をやってもおもしろい。たとえスベッても笑えますよね。


結局、2年半で解散して、ぼくは芸人を辞めるんですけど、このときの経験は後々、非常に役に立ちました。人の先入観は非常に強い影響力を持っているので、そのためにもブランディングが大事だと気づいたからです。だから、「元・お笑い芸人」という肩書きを最大限に活用しているんです。元・お笑い芸人の社長がおもしろい商品を作っているぞ、と社内にも社外にも浸透するよう、できるだけ表に立つように心がけています。

 

エンドライン株式会社

福岡市中央区天神2-3-36 ibb fukuokaビル4F

TEL:050-5269‐2990

 

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